インドにおけるレンガ産業の課題点
インドのCO2排出量は約22億トンで、中国,アメリカに次ぐ世界第3位のCO2排出国であるが、「第26回 国連気候変動枠組条約締約国会議:COP 26 (2021.12)」で2030年までに10億トンのCO2排出量の削減・2070年までに排出量の正味ゼロの目標を表明したことで、国際的に注目を浴びている。ここで、インドの建設材料の分野に焦点を当てると、インドの主要建材である「焼成レンガ」の製造に伴うCO2排出量は約1億トン/年と推定されており、インド全体の約5%と大きな割合を占めている。また、焼成レンガは粘土を原料としているため、レンガ製造のために、約70万ha/年の農地が削り取られていて、農地の急激な減少や荒地化が深刻な問題(写真1)となっている。さらに、レンガ産業では、女性や児童を含む貧困層の労働者が危険かつ不衛生な労働環境下で製造に従事していることから、人権面の課題なども国際的に指摘されている(写真2)。
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写真1)農地の削り取りの様子
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写真2)レンガ窯と児童労働の様子
無焼成レンガの研究概略および
地元企業との協力
上述のような諸課題の解決を目指し,「無焼成レンガ(=焼成しないレンガ)」に関する研究を2008年から開始しており,10年以上の研究期間において,ブロック工場を有する地元企業の協力のもと,研究を進めてきた経緯があり,地元発のSDGs貢献技術の一例といえる。地元企業の協力のもとで開発した無焼成レンガの一例(写真3)を示す。
- (1)原料面での特徴
- 一般的な焼成煉瓦が粘土を主原料としているのに対し,無焼成煉瓦は原料として粘土を一切使用しないことに加え,全質量のうちの40%程度を石炭火力発電由来の廃棄物である石炭灰(以下:フライアッシュ)が占めており,環境配慮を意識した原料構成となっている。
- (2)製造面での特徴
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文字通り,無焼成煉瓦は焼成行為を要しない製造方式であることに加え,プレス機器(例:写真4)を用いた方式を採るため,幾分かの電力は消費するものの,焼成行為と比較すると製造工程におけるCO2排出量は圧倒的に低い。一方,生産性については,焼成レンガと比べ,5倍以上の生産性であることが試算されているため,今後ますます需要が拡大する煉瓦市場にも十分に対応可能な量産化技術である。
- (3)製造面での特徴
- レンガで最も重視される品質項目は圧縮強度であり,市場の価格設定とも関係しており,圧縮強度が高いものほど,市場価格も高価になっている。日本で適用されているJIS同様,インドにおいてもIS(Indian Standard 1077:Common Burnt Clay Building Bricks)という規格が定められており,レンガの圧縮強度については,7N/mm2が規定値として定められている。これまでの研究成果として,従来の焼成レンガと同等の価格で15~20N/mm2の圧縮強度が発現可能であり,インド基準の2~3倍程度の水準を満たしている。上記のように,コストパフォーマンスにも優れていることから,従来の用途以外の新たな用途展開も期待できる。
地元発の無焼成レンガ技術とSDGs貢献
無焼成レンガが関表与するSDGs
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低炭素型の技術開発によって貢献
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粘土未利用の材料構成によって貢献
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石炭灰の再資源化によって貢献
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衛生的な労働環境かつ高い生産方式によって貢献
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日印間での取組み・地元企業との連携によって貢献
【参考文献】
- 1)https://cdn.cseindia.org/docs/aad2015/11.03.2015%20Brick%20Presentation.pdf
- 2)Internal Labour Organization: Environment, human labour & animal welfare, Unveiling the full picture of South Asia’s brick kiln industry and building the blocks for change, 2017, https://www.ilo.org/global/topics/forced-labour/publications/WCMS_542925/lang--en/index.htm