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寛政年間における二本松藩棟梁頭取の役割と城下絵図


 奥州二本松藩棟梁松田喜右衛門は寛政元年(1789)に頭取に任ぜられるが、
その当時の棟梁頭取に求められていた立場と仕事の内容を示す史料『諸御用達
写』(以後『御用達』)と、元図の作成時期は不明であるが、右上に「寛政三
辛亥年四月冩」及び「文化七庚午年正月冩」という書き込みがあり、左下隅に
「伊藤氏」と記される城下絵図(二本松市玉嶋氏蔵、以後『絵図』と仮称)と
が存在する。
 本報告は、『絵図』が寛政期頃の二本松藩城下の様子を相当程度の正確さを
もって伝えられたものであることと、その『絵図』を基にして、同時期の藩棟
梁の仕事がどのようなものであったかを紹介しようとするものである。
 『絵図』は縦 835×横 1,140 mm の御家中屋敷拝領絵図とでもいうべきもの
でそこに書き上げられた御家中や町割をみると、『二本松市史』所収の『寛政
三年御家中覚』(一部欠落していると思われる。以後『覚』)に記された御家
中の大半とよく一致しており、これによって町名も正確に把握することが可能
になる。特に、他の資料からでは判読が難しい(T)中小姓部屋・(U)御用
屋敷・(V)御鷹部屋(御徒士部屋)・(W)鉄炮谷奥の会所・(X)新町切
通し・(Y)長柄部屋・(Z)代官町萱蔵などの具体的場所が、『覚』と『絵
図』を比較することによって明確になるので、それを図中に示すことにする。
このような点で、本『絵図』は貴重な史料であり、また信憑性も高いものとい
える。

 天保三年(1832)の城下改修以降幕末までの状況はまた異なっているが、そ
れについては機会を改めることにする。
 ところで、『御用達』に記録された寛政二年1年間の二本松城下における建
設工事は次の様になる。
  御修復場所
1 御城中不残 大下馬〓千人溜井戸損候節作事方〓〓申立候
2 本城土藏不残 番人宅損候節郡代中〓被申付候
3 塩硝藏〓柵
4 西谷御門柵斗
5 本町谷不残〓御前土手〓垣
6 御賄所不残
7 松坂御門不残土手〓垣〓
8 中小性部屋不残 小城代小頭預り同人〓御修復申立候御長屋受取渡之節不
 罷出候
9 桜馬場不残向釜屋共〓
10 御鷹部屋御用屋敷不残作事方預り
11 御城米藏番人宅同前入口門同所小屋壱ツ
12 会所不残
   但釜屋同心御扶持人大工不仕候小人〓〓致候石方茂不残小人〓為致候才
  判斗致候
13 矢嶋權兵衛長屋表門斗り尤廻り垣
14 丹羽庄兵衛後柵鉄鉋谷入何方〓茂無申立此方〓〓申立ル
15 内大手御門〓塀作事方〓〓申立同所番所大城代小頭申立ル
16 御作事屋〓元方不残
17 鐘撞堂番人宅茂郡代中〓申付有之候得〓仕候
18 御鍛冶屋不残番所
19 久保町御門〓番所柵〓垣大城代小頭申立候
20 一ノ町御用屋敷不残小城代預り同人申立
21 七狭間御門柵〓番所小城代小頭申立
22 智善院雷神社〓鳥居郡代中被申付候
23 土田新五兵衛脇高〓此方〓申立ル 「〓」=欄字異字
24 新町下ノ番小城代小頭申立ル
25 二ノ町土藏不残土橋柵木戸〓〓預り役筋〓申立ル
26 長野玄壽前高〓〓同人脇〓御馬屋前〓堀さらい何方〓茂無申立候共斗申付
 候
27 長柄部屋不残堀〓〓但宅角屋引合
28 下御厩不残役人宅引分
29 池之入御番所入口門柵〓外分木
30 池之入御茶園入口堀 〓〓小家三軒是ハ自分小役人被指置子年相願やねい
  たし候
31 七ノ丁夫食藏門堀〓〓割奉行〓申立ル
  但中堀〓〓屋道西之方明屋敷境両方〓〓揚塀取付〓南之方ハ〓屋〓〓申立
   候 (「〓」=牢字異字)
32 同町的場不残〓小屋番人申立  (「〓」=萱字異字)
33 代官丁〓小屋〓番人宅〓番人申立

34 竹田口御門〓番処柵内外高〓両方〓〓御堀土手
   但し御堀作事方預り南北両方〓〓柵之内東部分ハ漆〓〓草かり申候己之
     三月弥義右衛門殿ヘ相伺候處前々〓
   右之通由指圖御座候 尤米代出し候由

 これは『御用達』の最期の部分に纏めて記されたものを載録しただけで、特
に整理はしていないが、棟梁頭取が止めた城内の建設工事の記録を『絵図』に
落とすことができる。この他、『御用達』には、1年間の頭取として参加しな
ければならない行事にあってどの様な役割を担ったかが、各月ごとに纏められ
記録されているが、なかには「雨降りで道がぬかるんだから盛砂を指図した」
ことや「藩主の帰城前に本城登山道の掃除、本丸まわりに打ち廻した簀垣なら
びに稲荷掃除などを行った」ことなども見てとれる。当然のこと、重要な事項
に関しては大工・杖突・穴生方・石方・足軽などを差配する立場に置かれてい
たが特に普請に関しての検分・諸積吟味が重要な責務でもあり相当の重労働で
あったようである。一人では廻り兼ねるので、一部役割を免除してくれるよう
申し入れている。その一部を紹介する。

   「覚」         縦172 ×横138、表紙 縦使い、本文 横使い
        棟梁頭取
        松田喜右衛門
右之者旧冬棟梁頭取小頭座上被 仰付候〓付勤方之儀左之通相伺申候
一頭取被 仰付候上〓諸積方吟味之儀何〓不依相外レ不
 申候様吟味為致其上〓〓私共吟味仕候而可然奉存候右
 〓付候〓〓並棟梁同様〓朝割も仕吟味相勤候〓〓壱人
 〓〓廻り兼候御座候間朝割〓御免被成昼四ツ時〓御作
 事相仕舞ヒ〓日々指出候様可仕哉〓奉存候
一在御用有之見分未之節棟梁指遣候儀御座候所前文之通
 被 仰付候〓〓在見分指出候義〓相除可然奉存候
  (途中略)
一職人為改春秋一度宛棟梁指出候所前文之通御座候間役
 所諸積り〓〓相放し不申候様仕候上ハ喜右衛門義〓廻
 村相除可然哉奉存候 右之通相伺申候間御指圖被下度
 奉存候以上
  寛政二〓年
             正月十八日御作事奉行〓
   御郡代中様
 註)二本松市 松田大輔氏蔵

【御修復場所のうち作事方(松田喜右ヱ門)申立て分 19 件】
1 御城中不残 大下馬〓千人溜井戸損候節作事方〓〓申立候
3 塩硝藏〓柵
4 西谷御門柵斗
5 本町谷不残〓御前土手〓垣
6 御賄所不残
7 松坂御門不残土手〓垣〓
9 桜馬場不残向釜屋共〓
10 御鷹部屋御用屋敷不残作事方預り
11 御城米藏番人宅同前入口門同所小屋壱ツ
12 会所不残
   但釜屋同心御扶持人大工不仕候小人〓〓致候石方茂不残小人〓為致候才
    判斗致候
13 矢嶋權兵衛長屋表門斗り尤廻り垣
16 御作事屋〓元方不残
18 御鍛冶屋不残番所
22 智善院雷神社〓鳥居郡代中被申付候
27 長柄部屋不残堀〓〓但宅角屋引合
28 下御厩不残役人宅引分
29 池之入御番所入口門柵〓外分木
30 池之入御茶園入口堀 〓〓小家三軒是ハ自分小役人被指置子年相願やねい
  たし候
34 竹田口御門〓番処柵内外高〓両方〓〓御堀土手
   但し御堀作事方預り南北両方〓〓柵之内東部分ハ漆〓〓草かり申候己之
    三月弥義右衛門殿ヘ相伺候處前々〓
   右之通由指圖御座候 尤米代出し候由

【御修復場所のうち作事方代理申立て分2件】
14 丹羽庄兵衛後柵鉄鉋谷入何方〓茂無申立此方〓〓申立ル
26 長野玄壽前高〓〓同人脇〓御馬屋前〓堀さらい何方〓茂無申立候共斗申付
  候

【御修復場所のうち他の職掌よりの申立て分13 件】
  (小城代小頭預り同人・小城代小頭・大城代小頭・役筋・割奉行・小屋番
  人・本人)
2 本城土藏不残 番人宅損候節郡代中〓被申付候
8 中小性部屋不残 小城代小頭預り同人〓御修復申立候御長屋受取渡之節不
  罷出候
15 内大手御門〓塀作事方〓〓申立同所番所大城代小頭申立ル
17 鐘撞堂番人宅茂郡代中〓申付有之候得〓仕候
19 久保町御門〓番所柵〓垣大城代小頭申立候
20 一ノ町御用屋敷不残小城代預り同人申立
21 七狭間御門柵〓番所小城代小頭申立
23  田新五兵衛脇高〓此方〓申立ル (「〓」=欄字異字 本人の申立て)
24 新町下ノ番小城代小頭申立ル
25 二ノ町土藏不残土橋柵木戸〓〓預り役筋〓申立ル
31 七ノ丁夫食藏門堀〓〓割奉行〓申立ル
  但中堀〓〓屋道西之方明屋敷境両方〓〓揚塀取付〓南
   中之方ハ〓屋〓〓申立候 (「〓」=牢字異字)
32 同町的場不残〓小屋番人申立 (「〓」=萱字異字)
33 代官丁〓小屋〓番人宅〓番人申立

【作事奉行と連名で郡代に申立て】
  私共・・・並棟梁同様〓朝割も仕 吟味相勤候〓〓
  壱人〓〓廻中り兼候御座候間朝割〓御免被成 昼四ツ時(午前10時)
 〓御作事相仕舞ヒ〓 日々指出候様可仕哉〓奉存候
  在御用有之見分未之節 棟梁指遣候儀御座候所 前文之通被仰付候〓〓
 在見分指出候義〓相除可然奉存候
  懸御用申付候節〓 頭取〓〓茂指出可然奉存候
  在御用之内重立候御普請御届候節〓 見分積方共棟梁之外
 右之者指出可然哉奉存候

  屋敷引渡し之節 棟梁杖突召連引渡し仕候處 右喜右衛門義〓前文〓申立
 候通 諸積り旨 頭取吟味仕候事〓御座候間 引渡等〓ハ召仕申間敷哉奉存
 候

  獨札以下屋敷請取渡し共〓 私共并小奉行も罷出不申 棟梁杖突同心目付
 立合〓〓請取相渡し為致候事〓御座候處 右節〓久左衛門義も相除不申候〓
 ハ罷成間敷哉〓奉存候

  職人為改春秋一度宛 棟梁指出候所 前文之通御座候間 役所諸積り〓〓
 相放し不申候様仕候上ハ 喜右衛門義〓廻村相除可然哉奉存候
   寛政二〓年
     正月十八日御作事奉行〓
    御郡代中様

【朝割】
   二月
  二合田桶蓋取ひかへ過水番申立 朝割〓〓足軽小人之内〓〓遣候杖突不遣
  水番才判仕候 石ふた藁干候〓追〓取寄壁方中ヘ相渡ス

   四月
  嶽湯小屋〓ケ遣候事 代官中〓郡代中〓申立有り 郡代中〓被申付候杖突
 壱人釘番壱人足軽小人之内 足軽遣候節〓 杖突かり申付 遣候大工御扶持
  人障無之候得〓 玉井組〓雇召仕申候 屋根板萱玉井組〓割なし名主方〓〓
 申し付 入用次〓仕申候人足〓 大積り〓〓 玉ノ井組代官中〓申遣召仕候
  材木運び人足同断右之外元方〓請取大材木直納好申候杖突大工両無持指紙
 受〓是〓町 〓出ル

【棟梁頭取(小頭)の仕事内容(例として3月を採り上げる)】
 一上己 御普請止前日掃除申付候
 一奥筋御大名方御通〓付 道橋上下馬出〓垣組之〓垣見分

  杖突穴生小頭申付指出申候 石垣下掃除見苦敷候得〓 郡代中知らせ代官
 中〓申参候
 一御登一両日前 御玄関右之方腰掛〓御廣間入口〓之間〓 御鑓立致候 細
  木いとむき〓 〓釘打鑓結付候 小縄廿程付置候 組御帰城之折同断
 一御登之節 御鈴廊下〆り 前日御用人中〓申来ル大工両人杖突壱人申付 
  為詰置御 立被拵 早束右之者召連罷出候 御小性目付〓案内致 羽め板
  〓〓囲申候 御帰城之折 當日朝明ケ申候 仕方同断 尤御用人中〓申来
  ル

 一両社御参旨之節莚様弍枚 本證文〓〓受取 玉垣之内〓敷拂すたり 初午
  之通前日掃 除申付 すい神門〓玉垣〓砂敷申候 表門〓社内不残掃除 
  當日月番之者 麻上下〓〓相詰ル 疱瘡神左之方〓居 杖突壱人掃除人相
  詰 自分〓後〓指置候
 一弓見分郡代中〓申来ル 古紋付幕三張請取 先判月番小城代中幣ふり足軽
  目付見分中 日々之幕張取仕舞之儀被仰付被下候様 郡代中へ申達候 小
  人壱人宛昼過〓 相渡候 無左候得〓 杖突壱人遣候 此間〓郡代中申達
  候 秋茂右同断
 一午五月朔日 御發駕之折 晦日大雨〓〓 もり砂置候砂敷候儀成兼〓〓 
  雨ふり候〓 敷候〓 道悪敷可罷成候 盛砂之侭〓〓差置可申哉 渡辺弥
  次兵衛殿〓相伺候處 左候 〓〓盛砂跡ちらし候處有之候〓〓 見苦無様
  〓相直シ指置候様 被申聞候 然所 朔日天氣晴候間 道筋宜通斗敷申候
   ぬかり候所〓盛砂〓〓指置候
 一御發駕御帰城之節 久保丁口御門外之方土手之方〓罷出 御目見申上銘々
  披露有之候 杖突帳付不残自分向之方〓〓御目見罷出候 月番之帳付壱人
  相残し 掃除人杖突後指置 右之節 千人溜井戸〓つるべ下ケ申候事
 一御先荷物番人足軽 廿四日夜〓翌廿五日夜〓 ?番右御荷物出火之欠付 
  五六人御用人中〓申来ル

【棟梁頭取(小頭)の仕事内容(例として1月を採り上げる)】

 一元日〓四日〓立番同心小城代小頭〓證文〓〓申来ル引人〓〓相渡ス
 一御門松引同心七拾人餘長柄小頭〓證文〓〓申来ル引人〓〓相渡ス
 一五日拜禮宵日掃除申付候當日莚四拾枚半切桶壱ツ柄杓遣候杖突壱人小人三
  人明ヶ六ツ時より相詰候
   但シ午ノ四月十一日大谷兵庫殿手水鉢被指上候〓付以来半切相止メ石鉢
    石相用候様成田弥義エ門殿指圖
 一六日會所御寄合初前日掃除玄関前もり砂為致候
 一九日御普請初 御城下〓穴生方小頭両人石方不残罷出 あき之方向細工初
  致候 同所〓 杖突壱両人同心三人罷出 千人溜の方〓土三もっこ取石橋
  きわ〓敷し出 自分共も麻上下〓〓罷出候 穴生方〓茂道具持両人相渡候
 一同日御作事初 角柱壱本請取 大工共〓初致候 杖突帳付棟梁御杖持人大
  工不残罷出 自分共茂不残相詰候
   但 右〓付相渡候普請人〓大工石方其外丸勤〓致遣候 右角柱火中もの
    相成候
 一同日大工共在番中付候 前廣〓棟梁共申付在番前承り置候事
 一同日普請作事始之義 前日郡代中相伺置申渡候 元方御鍛冶屋〓承り参候
  間知遣候
  例年十六七日頃〓始申候 御急キ用来候得共 作事始前〓〓茂仕候 尤棟
  梁茂罷出 候自分共茂折々罷出候
   但し元方鍛冶屋作事相止候節為知申候あの方〓承り参申候

【棟梁頭取(小頭)の仕事内容(例として2月を採り上げる)】
 一初午 前日稲荷三ケ所 本城元御部屋様殿内御内所掃除申付候 當日莚五
  枚薄縁三枚 御座敷方〓受取〓三ケ所段々相用申候 杖突壱人小人召連早
  朝〓罷出候 右之趣御用人内〓申来候請取もの 前日右御用人先判取申候
  薄縁〓當座證文 莚本證文〓すたり相 除中務ヘ相渡候 請取書存置候
 一御開札
  御登り年ハ 當月出来御用人中案内申候 御祐筆方〓取参候 御帰城年〓
  三月始出来 郡代中断勘定所中ヘ指出
 一中長サ弍尺九寸五分 松板
  中幅九寸弐分    札数廿壱枚
  右之通御泊り御昼共〓相改候旨 午ノ三月朔日丹羽所右衛門殿指圖
  右之板生〓〓〓われ候間 寒中ひかせ可申候事
 一二合田桶蓋取ひかへ 過水番申立 朝割〓〓足軽小人之内〓〓遣候 杖突
  不遣水番才判仕候 石ふた藁干候〓 追〓取寄壁方ヘ相渡ス

 本『諸御用達写』をみると、今更のように棟梁頭取の業務範囲の広さを認識
させられる。各部署から様々な内容が上奏されてはいるものの、中には何れの
部署からも上奏されないものもあり、そうしたことどもをも掌握する必要があ
る。そこには、基本的にそれぞれ異なる業務間を横断的にみる姿勢が要求され
る。結果として、その業務範囲は道路の清掃から城内の正月飾りの手配にまで
及んでいる。