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I−2.地方都市再開発への応用研究編


地方都市の顔創り


1) 城下町における空間ヒエラルキーと現況の町並み

 用水路のもつ基本的空間の上下関係と、水が果たす共同意識への役割につい
て、給水と排水の両面から捉える必要がある。江戸時代の用水路の基本的機能
は生活用水の提供であり、それはコミュニティーの形成にも大きな影響力を持
つ。江戸のような大都市では木管による水道が用意されたが、二本松城下にあ
っては城下を西から東へ流下するこの用水路が水道として整備された。当然、
上流に生活する者は下流に生活する者もまたこの水を利用することを意識して
いた訳で、そうであるからこそ水に対する接し方も重要な社会性を帯びていた
筈である。生活用水の供給に対しては、この用水路以外にも多くの井戸が穿た
れた筈であるが、その点についてもいま一つ明かにされてはいない。しかし、
用水路が等高線に沿って開削されているのに対して、井戸からの揚水は基本的
に一時的使用に限られる訳で、多くは等高線に直行するように土地の傾斜なり
に整備される。この部分は多く排水を受け持つものと考えてよい。
 二本松城下完成期において最も重要な用水路は、箕輪門前の内馬場から西の
馬場を通り竹田堀に導かれるもので、この水路の大基となる内馬場近辺に重鎮
ともいうべき家臣が屋敷地を拝領する形となっている。また、南側の一ノ丁か
ら二ノ丁に通ずる用水路の基は賄所や城内米蔵が置かれている。すなわち、水
にはその流れが持つヒエラルキーがあり、それは上流ほど高く下流に行くほど
低くなる。
 なお、この馬蹄形稜線内(郭内)の水路の配置に関しては、水の持つヒエラ
ルキーだけでなく、道路との関係も重視する必要がある。この地区における用
水路は道路の側に沿って配される。また、この道路管理についても「寛政年間
における二本松藩棟梁の役割と城下絵図」で触れたように、道路や用水路に帰
属する人々の管理ではなく、藩の小役人の仕事であった。そこには道や水を通
じて共生する意識を高揚させるといった側面は見られない。
 しかし、一方で稜線外(郭外)の町人町では道路の中心部分に用水路を設け
ている。それによって道の両側の家々による共同管理が要求されるここでは道
と水とが一体となって一つの生活空間を創り出している。

 それにしても、最も水を必要とする現代社会において、上下水道の完備が、
幕藩体制下における水(水路)に対する帰属意識・共同意識を失わせる原因に
なっているということは、まさに皮肉以外の何者でもない。


2) 地区特性の特化=コミュニティーの継承

歴史的資源の発掘と地区特性

 歴史的資源には二つの側面がある。その一つは、言わずもがなではあるが、
歴史的残存物という目に見える形で現在に伝えられた文化財的事象で、二本松
においては城址や館跡などをさす。いま一つは、地割りとか隣組とか消防団と
いった目には見えないが生活組織の中で継承されたシステムである。それは、
道や水といった普段はあまり意識しない部分での共生関係に起因するものが多
い。そして、これら二つとも現代の感覚からいくと、民間であれ行政であれ立
場は異にしても「開発」と「保存」という対立概念で語られることが多い。
 現在、われわれは高度成長に支えられて我武者羅に進んできた「生産性の向
上=豊かさ」という認識から「本質を見据えて物を使い切ることこそ豊かさの
原点」という認識へとその価値観を変換する時期に差し掛かってきている。そ
うした意味からしても、自らが生を育んできた地域が本来的に有する資質や先
人が培ってきた空間構成に対する積極的アプローチが必要になる。
 たとえば、二本松城下における郭内と郭外の空間の質の違いがあげられる。
郭内にあっては、武家屋敷地ということもあって、町に人が無秩序にあふれて
いるというような情況は想定し難く、道と水による整然とした秩序が成り立つ
高級住宅地とでもいうべき性格を持つ。それに対して、郭外の町人町では水の
上下関係より町の中央か否かがヒエラルキーの高さを決め、雑多な性格の空間
が地区ごとに形成されていたものと推定される。このように、それぞれの地区
が持つ性格をどのように組み合わせてきたか。その中にこそ都市の遺伝子とも
いうべきものが認められる。
 しかし、区画整理や道路拡張を前提とした町の近代化はそうした空間を均質
化し、それまで培ってきたコミュニティーの構成秩序を根底から覆してしまう
結果となっていることに留意しなければならない。この部分を見直すことによ
って新しい再開発の方法を見出すことが可能になろう


歴史的資源

 二本松は古い歴史の都市であり、町中いたるところに歴史的情緒を感じさせ
るにも拘らず、他の多くの歴史的都市のように伝統的建造物群保存地区に指定
される程のものは見当たらない。いわゆる文化財的建造物が大きな付加価値を
提供し、それによって町が活性化する条件が整っている町とは考え難い。しか
し、だからこそ小さな歴史的資源の発掘とその組み合わせが大切である。
 そこで、歴史的資源として認識可能な事象を整理してみると、次のようなこ
とになろう。
【中世末期】
 1)中世城郭として馬蹄形稜線上に配された館の様子を伝える。
 2)馬蹄形稜線に囲まれた丘陵地の麓に根小屋的な城下町を形成した様子が
  窺える。
【江戸時代】
 3)近世初期の城郭の縄張りおよび、穴生積と呼ばれる石垣構築技術を明瞭
  に観察し得る。
 4)道路は典型的な近世城下町の計画性に則っている。
 5)近世城下建設期の水道の情況を現在に伝えている。
 6)今回の調査研究により、城下町建設期の手順が土地の利用情況に照らし
  てよく推測し得る。
 7)江戸時代の藩士の拝領地や町人町の地割りがよく残されている。
 8)大手石垣が残存し、堀割の情況も確認し得る。
 9)丘陵地に挟まれ帯状に展開する町並みは二本松の大きな特徴である。
【明治時代以降】
 10)丘陵地南の郭外のみ商業地として発展。
 11)明治初期の地籍をほぼ完全に現在に伝える。
 12)幾つかの建物は江戸時代に成立した建築構法を残す。


地区特性

 郭内の道に囲まれた敷地と道の属性
   通過交通による喧騒から開放されている。
 郭外の道に依存したコミュニティーと裏路地
   本来的には人々の往来が多く、雑然としているがどこか華やいだ部分を
  有する。


3) 歴史的資源の面的活用

4) 旧字単位の継承と祭り・町内会・消防組織の基礎単位

      防災システム組み込み卯立ビル=公営住宅

5) 都市防災組織・住民運動組織から見た市街地再開発−地区開発−へ
 の提言(小林)


都市の遺伝子の継承


1) 敷地特性の継承

   間口・奥行きと敷地面積の関係からみた短冊型敷地の利用形態
   敷地形状の崩壊パターンの防止と予測される変化(小林)

2) 前面道路に帰属する建築物配置計画−建築物更新システムの提案−

3) 二本松町の規模の適正化とその背景
                 −ヒューマンスケールへの提言−

4) 道路計画から見た市街地再開発への提言


建設資財のストック&フロー


1) 二本松市街地における建築物の新しい維持・更新とそのシステム
 (小林)

2) 木質系建設資財に関するストック&フローから見たライフサイクル

3) 字別に見たライフサイクル

4) 建設資財のストック&フローから見た地方都市の再開発に関する提



市街地再開発に関する新しいシステムの検討


1) 大型資本導入に対するアンチテーゼ

2) 地域内更新循環システムへの提言

3) 建築学科学生の取り組み例

     字別開発計画
     新開発型 道路沿いのみ間口規制・奥行き敷地統合型の仮店舗・自
          由市場対応ホール
          部分的形態保存商店
     保存型  伝統的敷地利用形態の保存


附 二本松城址整備整備計画に関する一提言



II .市 民 と の 対 話 編

1.地方都市それぞれが豊かな個性溢れる都市に生まれ変わる時です。

    ・それぞれが固有の性格を有する都市であるべきです。
    ・人間一人一人の個性が異なるように、都市の一つ一つが異な
     った個性を表現すべきではないでしょうか。
    ・これまでのような大型資本投入の大都市型開発ではなく、小
     さな資本による小規模な開発を考えたらいかがでしょうか。
    ・地元資本による小規模インナー開発−ワークショップ型式−
     はこれからの町開発の主流になるでしょう。

2.自立型の都市への路を探ることこそ「町づくり」そのものです。

    ・自立型都市とは何でしょうか?
    ・自立型都市の魅力とは何ですか?
    ・安くて豊かな町に住みましょう。

3.自立型都市の形成は可能です。

    ・木質系都市開発は地方都市の一つの魅力を産みます。
       木造住宅固有のライフサイクルは一般住宅では36〜40
        年、商業建築で26・27 年程度です。
    ・固有のライフサイクルを考えてみましょう。
        二本松市固有のライフサイクルは50年程度です。
        字別のライフサイクルを考えてみましょう。
    ・コミュニティーの形成・維持こそ町の活力です。
        旧二本松町のコミュニティーの基盤を考えてみましょう。
        これからのコミュニティーの基盤は旧二本松町のコ
        ミュニティーの基盤を抜きには考えられません。

4.歴史的資源は豊かな個性の原点です。

    ・二本松市街地における歴史的資源は何でしょうか。
    ・文化財的資源。
    ・精神史的資源。
    ・城下町としての空間構成と道路。
    ・歴史的資源の面的展開。
        歴史的資源の活用の一例として「二本松城址保存管理
        計画の骨子」を取り上げるが、城址に限らず、旧二本
         松町内は歴史的資源の宝庫である。
        大都市型開発の波に未だ洗われていない二本松市は、
        現在新しい開発手法を適用するには最短の位置にある
        といっても過言ではない。
    ・都市整備との連携。

5.防災都市へ向けて。

    ・火避け公園の設置と防災用水の親水公化。
    ・防災ビルの建設。
        仮入居住宅、公営モデル住宅の開発。

6.新しい商業空間への可能性。

    ・道路と商業空間の関連について。
    ・通過交通は商業空間を分離する。
        商業近代化は豊かな商業空間を自滅させた。
    ・歩車共存こそ商業繁栄の路。
    ・個性ある商店の面的連携。
        傘の要らない商業空間の創設。
        保全建物と新規建物の共存による流れと淀み。