4.歴史的資源は豊かな個性の原点です。
2) 地区特性の特化=コミュニティーの継承
歴史的資源の発掘と地区特性
歴史的資源には二つの側面がある。その一つは、言わずもがなではあるが、
歴史的残存物という目に見える形で現在に伝えられた文化財的事象で、二本松
においては城址や館跡などをさす。いま一つは、地割りとか隣組とか消防団と
いった目には見えないが生活組織の中で継承されたシステムである。それは、
道や水といった普段はあまり意識しない部分での共生関係に起因するものが多
い。そして、これら二つとも現代の感覚からいくと、民間であれ行政であれ立
場は異にしても「開発」と「保存」という対立概念で語られることが多い。
現在、われわれは高度成長に支えられて我武者羅に進んできた「生産性の向
上=豊かさ」という認識から「本質を見据えて物を使い切ることこそ豊かさの
原点」という認識へとその価値観を変換する時期に差し掛かってきている。そ
うした意味からしても、自らが生を育んできた地域が本来的に有する資質や先
人が培ってきた空間構成に対する積極的アプローチが必要になる。
たとえば、二本松城下における郭内と郭外の空間の質の違いがあげられる。
郭内にあっては、武家屋敷地ということもあって、町に人が無秩序にあふれて
いるというような情況は想定し難く、道と水による整然とした秩序が成り立つ
高級住宅地とでもいうべき性格を持つ。それに対して、郭外の町人町では水の
上下関係より町の中央か否かがヒエラルキーの高さを決め、雑多な性格の空間
が地区ごとに形成されていたものと推定される。このように、それぞれの地区
が持つ性格をどのように組み合わせてきたか。その中にこそ都市の遺伝子とも
いうべきものが認められる。
しかし、区画整理や道路拡張を前提とした町の近代化はそうした空間を均質
化し、それまで培ってきたコミュニティーの構成秩序を根底から覆してしまう
結果となっていることに留意しなければならない。この部分を見直すことによ
って新しい再開発の方法を見出すことが可能になろう
歴史的資源
二本松は古い歴史の都市であり、町中いたるところに歴史的情緒を感じさせ
るにも拘らず、他の多くの歴史的都市のように伝統的建造物群保存地区に指定
される程のものは見当たらない。いわゆる文化財的建造物が大きな付加価値を
提供し、それによって町が活性化する条件が整っている町とは考え難い。しか
し、だからこそ小さな歴史的資源の発掘とその組み合わせが大切である。
そこで、歴史的資源として認識可能な事象を整理してみると、次のようなこ
とになろう。
【中世末期】
1)中世城郭として馬蹄形稜線上に配された館の様子を伝える。
2)馬蹄形稜線に囲まれた丘陵地の麓に根小屋的な城下町を形成した様子が
窺える。
【江戸時代】
3)近世初期の城郭の縄張りおよび、穴生積と呼ばれる石垣構築技術を明瞭
に観察し得る。
4)道路は典型的な近世城下町の計画性に則っている。
5)近世城下建設期の水道の情況を現在に伝えている。
6)今回の調査研究により、城下町建設期の手順が土地の利用情況に照らし
てよく推測し得る。
7)江戸時代の藩士の拝領地や町人町の地割りがよく残されている。
8)大手石垣が残存し、堀割の情況も確認し得る。
9)丘陵地に挟まれ帯状に展開する町並みは二本松の大きな特徴である。
【明治時代以降】
10)丘陵地南の郭外のみ商業地として発展。
11)明治初期の地籍をほぼ完全に現在に伝える。
12)幾つかの建物は江戸時代に成立した建築構法を残す。
地区特性
郭内の道に囲まれた敷地と道の属性
通過交通による喧騒から開放されている。
郭外の道に依存したコミュニティーと裏路地
本来的には人々の往来が多く、雑然としているがどこか華やいだ部分を
有する。
3) 歴史的資源の面的活用
4) 旧字単位の継承と祭り・町内会・消防組織の基礎単位
防災システム組み込み卯立ビル=公営住宅
5) 都市防災組織・住民運動組織から見た市街地再開発−地区開発−へ
の提言(小林)
都市の遺伝子の継承
1) 敷地特性の継承
間口・奥行きと敷地面積の関係からみた短冊型敷地の利用形態
敷地形状の崩壊パターンの防止と予測される変化(小林)
2) 前面道路に帰属する建築物配置計画−建築物更新システムの提案−
3) 二本松町の規模の適正化とその背景
−ヒューマンスケールへの提言−4) 道路計画から見た市街地再開発への提言
建設資財のストック&フロー
1) 二本松市街地における建築物の新しい維持・更新とそのシステム
(小林)2) 木質系建設資財に関するストック&フローから見たライフサイクル
3) 字別に見たライフサイクル
4) 建設資財のストック&フローから見た地方都市の再開発に関する提
市街地再開発に関する新しいシステムの検討
1) 大型資本導入に対するアンチテーゼ
2) 地域内更新循環システムへの提言
3) 建築学科学生の取り組み例
字別開発計画
新開発型 道路沿いのみ間口規制・奥行き敷地統合型の仮店舗・自
由市場対応ホール
部分的形態保存商店
保存型 伝統的敷地利用形態の保存
附 二本松城址整備整備計画に関する一提言
II .市 民 と の 対 話 編
1.地方都市それぞれが豊かな個性溢れる都市に生まれ変わる時です。
・それぞれが固有の性格を有する都市であるべきです。
・人間一人一人の個性が異なるように、都市の一つ一つが異な
った個性を表現すべきではないでしょうか。
・これまでのような大型資本投入の大都市型開発ではなく、小
さな資本による小規模な開発を考えたらいかがでしょうか。
・地元資本による小規模インナー開発−ワークショップ型式−
はこれからの町開発の主流になるでしょう。
2.自立型の都市への路を探ることこそ「町づくり」そのものです。
・自立型都市とは何でしょうか?
・自立型都市の魅力とは何ですか?
・安くて豊かな町に住みましょう。
3.自立型都市の形成は可能です。
・木質系都市開発は地方都市の一つの魅力を産みます。
木造住宅固有のライフサイクルは一般住宅では36〜40
年、商業建築で26・27 年程度です。
・固有のライフサイクルを考えてみましょう。
二本松市固有のライフサイクルは50年程度です。
字別のライフサイクルを考えてみましょう。
・コミュニティーの形成・維持こそ町の活力です。
旧二本松町のコミュニティーの基盤を考えてみましょう。
これからのコミュニティーの基盤は旧二本松町のコ
ミュニティーの基盤を抜きには考えられません。
・二本松市街地における歴史的資源は何でしょうか。
・文化財的資源。
・精神史的資源。
・城下町としての空間構成と道路。
・歴史的資源の面的展開。
歴史的資源の活用の一例として「二本松城址保存管理
計画の骨子」を取り上げるが、城址に限らず、旧二本
松町内は歴史的資源の宝庫である。
大都市型開発の波に未だ洗われていない二本松市は、
現在新しい開発手法を適用するには最短の位置にある
といっても過言ではない。
・都市整備との連携。
5.防災都市へ向けて。
・火避け公園の設置と防災用水の親水公化。
・防災ビルの建設。
仮入居住宅、公営モデル住宅の開発。
6.新しい商業空間への可能性。
・道路と商業空間の関連について。
・通過交通は商業空間を分離する。
商業近代化は豊かな商業空間を自滅させた。
・歩車共存こそ商業繁栄の路。
・個性ある商店の面的連携。
傘の要らない商業空間の創設。
保全建物と新規建物の共存による流れと淀み。