依怙都市目次に

近年の建設動向とその特徴

   

二本松市全体の動向と字別動向

      ───木材資源を中心としたケーススタディー───

 本稿では、防災・塵処理と軌を一にするある種の広域行政範囲(註1)にあ
って、でき得る限り外部からの資本導入を排除した省資源・省エネルギー・低
負荷型の街造りを「自立型都市」と定義して、その可能性を二本松市において
調査してきたが、本報告では、木材を都市建設資源の基本(註2)とした場合
の可能性を検討する。

【1 固定資産税台帳と確認申請データとの整合性】 昭和39年度〜平成3年
度の確認申請書から抽出された木造建築の建設戸数と固定資産税台帳から抽出
された木造建築の年度別登録戸数を比較すると、何方のデータもほぼ類似の値
を示す。すなわち、年次別建設動向の推移を見るためには、概略固定資産税台
帳の確認をすれば良いことになる。この情况が更に狭い「字」単位のエリアに
おいても成立することは既に報告(註3)した通りである。

固定資産税台帳登録戸数と確認申請戸

【2 旧町内における建設サイクル】 過去の旧町内における建設動向を固定
資産税台帳のデータから推測すると、二本松市旧町内の過去の建替えサイクル
は約48年と考えられる。平成6年国土開発技術センターの報告書によれば、現
在の木造建築の平均寿命は約39年(38.977年)と報告されていることからする
と、やや長周期と考えられる。そして、現時点での旧町内は建設の最も落ち込
んだ情况を呈しており、長期的建替えサイクルで見れば、再び上昇に向かう時
期と推測される。このことから、次の周期のピーク時を2005年に仮定し、地場
を中心とした今後の39年の建設資材に関するストック&フローの情况を予測す
る。
 こうした判断の裏には、建築物個別の物理的耐用年限および機能的耐用年限
といった枠を考え、その枠を越えた時点で一気に建替えが進行する可能性が高
いという指摘がなされた前回の報告(註4)がある。

現存建築物の年度別戸数

【予測のための条件】 地場を中心として今後39年間の建設資材に関するスト
ック&フローの情况を予測するために必要となる項目は、1.年次別建設延床
面積、2.単位材石数(石/坪)、3.地場供給材石数、4.リサイクル可能
な材石数で等であるが、これらの項目はいずれも一義的に導き出されるもので
はない。そこである種の仮定が必要になり、それを次のように規定する。

 1に関しては、今回は確認申請図面からの拾いだし数を使用するが、そのデ
ータが無い場合は固定資産税台帳の数値を使用してよい。一戸当たりの平均延
床面積は85.34坪で、全国平均42.50坪(住宅金融公庫調べ)に較べると相当
広いことになる。

 2に関しては、梁・桁・土台などの部材を一旦柱(5寸角長さ1丈)に換算
して坪当たりの柱本数(単位柱本数)を求め、その上で石数換算をしている。
これは、材石数/延床面積(単位材石数)の標準偏差が 0.9097であるのに対
して単位柱本数の標準偏差は 0.4659となり、単位柱本数の方がバラツキが少
ないことによる。このことは、リサイクルを考えた場合、その対象となり易い
のが構造材であることとも絡み合ってくる。ここで使用する単位柱本数は42棟
のサンプリングの結果得られた平均値1.52とする。
 因みに、単位材石数はやはり平均値でもとめると2.30石という値を得る。

単位柱本数のサンプリング

 3に関しては、福島営林署二本松森林事務所の1994年度販売実績によれば、
国有林 2,235 haから 8,028.57石であった。実際はこれらの切り出し材がそ
のまま二本松市内に販売された訳ではないが、今後の切り出し量が、最も落ち
込んでいる現在の販売実績を下回ることは先ず無いと想定し、地場供給という
観点からこの値を地場供給材石数(森林資源)として扱うことにする。

 4リサイクル可能な材石数の算出にあたっては、柱・梁・桁などの構造材の
み再利用し、板あるいは造作材は再利用しないこととした。ここでは再利用係
数を 1/2 と仮定する。

【ストック部材のリサイクルを考慮した需要と供給の予測式】 なお、二本松
市における総戸数も殆ど大きな変動を見ないことは既に報告5)しているが、そ
れを前提にして見ると、固定資産税台帳による各年度別木造建築物戸数の推移
から、データのある1868年に始まる最初の10年間と1917年からの10年間の残
存戸数はその周期における全建設戸数の11.7%と 24.5%に当たっている。そ
れを48年周期の建設の繰り返しの結果と考えるなら、1956年からの新しい39
年周期を適用した現在の木造建築物にあっても24.5%の残存率、言葉を換えれ
ば 75.5%は建替えられるということになる。そこで次の関係が成立する。

・柱1本の石数=単位柱本数×1/4
・全ストック材石数=固定資産税台帳床面積×単位柱本数×1/4
・リサイクル可能材石数=再利用算定ストック材石数×1/2
         =全ストック材石数×0.755 ×1/2
・滅失建物材石数=固定資産税台帳床面積×0.755
        =再利用算定ストック量
・木材需要量=建設戸数×平均床面積×単位材石数
・合計木材量=地場供給資源+前年度繰越材石数
             +リサイクル可能材石数−木材需要量

【旧町内における今後の木材資源の需要と供給】 以上の仮定から今後の39年
間の木材資源の需要と供給を考察すると、可なりの程度省資源化されるが、絶
対的な地場資源の供給不足から2028年度には最大で−122,741.83石にまで不足
量が積される。この不足量を1994年度実績のままで解消させるためには、その
後約14年間建設をストップさせる必要がある。このことは、建替え周期を14年
間延長するのと同等の意味合いを持つと考えれば、その周期は52年となり、二
本松固有の周期に近づくことになる。そして、1992年現在で蓄積された380万
石は蓄積温存された情况を維持し続けることになる。

年度別の木材需要量と供給量

木材資源の累積需要量と累積供給量

 なお、ランドサットデータの解析から、旧町内を中心とした3,808haで871ha
におよぶ天空率0%の針葉樹林(推定値1,742,032本)が検出されていること
からすると、この地区にあって針葉樹林域を拡大させること無しに、木材を環
境調整型素材(エコマテリアル)として利用し得る期待が更に高まるものと言
える。

ランドサットが捉えた森林資源

以上を纏めると、次のようになる。

本試論の前提
 (1)広域の括りは、消防組織・塵処理班にみる限り、旧二本松藩の領域に
   近づいている。
 (2)1993年度日本建築学会大会『「依怙都市・二本松」調査報告(3)−
   字別にみた建築物フロー・ストック』において二本松市にあっては社会
   的資産としての木造建築の位置付けが高位にあることを指摘している。
 (3)確認申請と固定資産税台帳のデータ比較から、建設動向の推移は概略
   固定資産税台帳の数値に置き換えることができる。
     1993年度日本建築学会大会『「依怙都市・二本松」調査報告(3)
     ──字別にみた建築物フロー・ストック』
 (4)建築物の立替え要因として
      1 物理的耐用年限
      2 機能的耐用年限
   が考えられるが、二本松においてはこの二つが同時的に発生する情况が
   想定される。
     1993年度日本建築学会大会『「依怙都市・二本松」調査報告(3)
     ──字別にみた建築物フロー・ストック』
 (5)二本松市における建設戸数の変動が少ない。
     平成2年度重点先導研究報告書『低負荷型建築・市街地形成システ
     ムの開発構想(エコ・シティー構想)の策定〈基礎的研究〉』建設
     省建築研究所・(社)建築研究振興協会 平成3年3月

結論
 (1)二本松における建築物建替えの物理的固有周期を52年程度に想定し
   得る。この周期は再利用率を引き上げる方策が整えば短くすることも可
   能である。
 (2)物理的固有周期を短くすることにより、木材ストック量が増加し、二
   本松地区における木材のエコマテリアルとしての期待感が高まる。