◇まちづくりワークショップを終えて

 

「…そうではなくて、さまざまな職業を持ち、隣に住むごく普通の人々、…中略…この人たちは、本質的な情報と重要なアイディアを持っている。…中略…コミュニティーの人々が計画にかかわるか否かは、住みやすい町ができるか、住みにくい町になるかを決定してしまう可能性があるのである。」


−ランドルフ・T・ヘスナー−


▽はじまり

今年3月、日本建築学会東北支部の企画委員より建築文化週間の行事になるようなものがないか問い合わせがある。ちょうどその時、郡山南拠点地区まちづくり委員会で「ふるさとの顔づくり計画策定」に携わっていて、広く住民の意見を計画に反映させる方法がないものかと模索している最中だったので、一石二鳥とばかり…。早速、委員会事務局に打診したところ快い返事をもらい、郡山南拠点地区を題材にワークショップ『郡山でのまちづくりゲーム』(日本建築学会東北支部主催、日大工学部土方研究室企画運営)を行うことに決定した。

 ところで、行政主体による各種まちづくりに関する会議が行われているが、計画策定期間が短いことから、会議回数3・4回、予め用意した案への疑問、意見を問い、決定するという定式化した会議がほとんどである。また、会議に出ているメンバーも関係団体の代表者など当て職が多く、計画内容に関心を持ち、熟知している者とはとうていいえない場合が多い。そのような会議では、活発な討議が行われようがなく、用意された議事がスムーズに?消化されていく。会議というよりは、用意された計画内容を承認するためのよりあいといった具合である。期限まで計画を何とかまとめなくてはいけないという事情があるとはいえ、常々こういった会議へ物足りなさを感じており、せめて会議に関心を持っている住民が聞けるように公開にしたらどうかなどと考えている。


 

▽広報

 3月末、建築学会「建築雑誌」への記事掲載のため、ワークショップの内容の検討がまだ不十分な段階で、タイトル、日時、会場、内容、参加対象者、講師名などを決めさせられる。最終的には、時間と内容の一部を変更せざるを得なかった。ワークショップの企画上、何を検討テーマにするか、どのような参加対象者を想定するかなどは最も基本的な決定事項である。このとき、収集情報量の少なさと準備期間の短かさにもかかわらず、無謀にもワークショップ実施に踏み切ったことをちょっぴり後悔。
 4月末、広報「こおりやま」6月号に一般住民参加を呼びかける記事を掲載。市との連絡調整不足から記事原稿締切日に広報への記事依頼をする始末。それでも何とか住民の興味を引くようにと、「みんなしてやってみっかい まちづくり」とか「おれらがまちづくりをみんなして考えねーがい!」などのキャッチフレーズを考えてはみたものの、学生の不評を買い、また紙面の大きさの都合もあって型どおりの記事内容に落ち着く。このとき、どれだけの住民参加が得られるか一抹の不安がよぎる。


 

▽準備開始

4月、新学期の忙しさが一段落した頃、ワークショップの準備に本格的に取りかかる。ワークショップの企画・運営は、これまで一度も経験がなかったので、予想してたとはいえ大変である。
 まず、ワークショップのテーマの明確化。郡山南拠点地区は、郡山市の副次核として位置づけられ、旧国鉄操車場跡地を含めた土地区画整理事業施行中、ビッグパレットふくしま(福島県産業交流館)建設中、郡山合同庁舎建設予定といったように、現在、各種事業が進行している。そのためこの地区は、多くの検討課題を抱えており、ワークショップのテーマとしては、事欠かないが、何よりも住民参加を容易にすることと住民が参加意義を実感できることに主眼を置いて決めようとした。市や県からの各種情報収集、現地調査及び様々な人々の意見を聞きながら検討した結果、住民がイメージしやすいテーマであることが重要と考え、住民が関心を寄せてくれそうな「新駅舎」と「南川沿い公園」の2つをテーマとして選定した。
 ワークショップを進めるに際しては、参加者全員が専門的知識のレベルに関係なく公平に意見を述べられるように工夫する必要がある。「新駅舎」では、交替で1人づつ思いつく意見を述べる方式、「南川沿い公園」では、予め用意したカードの選択方式をそれぞれ採用している。


 

▽基調講演

ワークショップの企画運営に際しては、情報収集やワークショップの成果を生かすためにも行政の理解と支援が必要不可欠である。また、行政職員も一般住民の一人としてワークショップに参加すれば、住民意識の理解だけでなく新たな自己発見、価値観の変革、共生意識の醸成と責任の自覚など様々な効用が考えられる。そこで、行政がよりワークショップに積極的に係わってもらうことを狙いとして、郡山市技監谷憲幸氏(現在助役)に支援をお願いしたところ、快諾。ワークショップの前に「まちづくり雑感」と題して基調講演をやっていただくことになった。

 


▽模擬ワークショップ

コーディネーター1人では、2つのテーマを同時に進行させることは聖徳太子でもない限り不可能である。そこで、初めに全体のレクチャーをトータルコーディネーターがやり、グループ毎の討議に入った段階で、各グループのコーディネーターに進行を任せる方法を採用した。そのため、各グループのコーディネーターには、本番前にワークショップの進め方について熟知してもらう必要性が生じ、この負担の大きいコーディネーターを誰に依頼するかという問題が生じた。応募してきた一般住民の中から人選できればいいのだが、参加申し込み締め切り日から本番開催まで5日間しかなく、日程的に無理。そこで、常日頃、酒を飲みながらまちづくりについて語り合っている仲間に依頼…誑し込んだ?。そして、彼らとの打ち合わせとワークショップ進行の点検も兼ねて、夜の模擬ワークショップ開催(2回)となったのである。

 


▽本番

平成9年6月15日(日)、午後1時から参加者65名(うちゲーム参加者43名)によりワークショップが行われる。結果内容については、当研究室のホームページ(アドレスhttp:www.ce.nihon-u.ac.jp/gakka/kenchiku/hijikata/hijikata.htm)を参照。

 


▽下記にコーディネーターを努めてくれた研究室スタッフのワークショップに対する感想を紹介しよう。

<研究生:安福直柔> 
近年、市民参加型のまちづくり形式について、その重要性や有効性が話題となり、国内に限らず国外においても多くの自治体で活用されているようである。このような新しいまちづくりが模索、実施されている都市計画シーンの潮流の中で、「郡山でのまちづくりゲーム」にコーディネーターの1人として参加させて頂けたことは、大勢の市民の方々とまちづくりというものについて話すことができたということだけで、大変有意義な経験となった。短い時間の中ではあったが、テーマとした駅舎づくりについて機能性、地域性等の観点から駅舎の外部空間、内部空間に対して様々なイメージを得ることができた。市民の方々の率直、直感的な提案がまさに核心をついていたり、それらのイメージを具体的な計画と結びつけることの困難さなど、やってみなくてはわからない貴重な体験は、僕にとって刺激的な瞬間だった。


<大学院生:徃見寿喜> 
前々から住民参加型のまちづくりに興味を持っていた。土方先生から「郡山でのまちづくりゲーム」の話を聞き、その企画・運営は大変な作業になると想像しつつも「先生、やりましょう!」と叫んだのは3月のことである。就職活動や修士論文の枠組み構成など気に掛かることは多々あったが、何より多感な学生時代に、都市計画の分野で注目されているワークショップ方式の効果・可能性を身を以て感じ、将来のまちづくりの在り方を自分なりに模索したかった。準備期間中は手探りではあったが、土方先生を中心に議論を繰り返し、次第に全体像がみえてきたときの充実感は何物にも代え難いものだった。当日は、コーディネーターの1人として、参加者と共に公園デザインについての提案を行った。今回の経験は、住民として、また専門家として明日の地域づくりに貢献することを志している私にとって、情熱と新たな意欲を掻き立てる貴重なアドバンテージとなった。(当初の予感は的中し、就職と修士論文は未だ先が見えず・・・。)


あとがきまたははじまり
 まちづくりワークショップは、継続してこそ意味があろう。郡山南拠点地区のまちづくりにとって、今回が終わりではなくはじまりになることを期待する。最後に、今回のワークショップ開催にあたり、ご支援とご協力をいただいた研究室スタッフをはじめ多くの方々に深く感謝いたします。
当研究室では、性懲りもなく他の町でわくわくしながらワークショップの準備中…。

 −創建より−




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