福島県中心商店街空洞化対策事業調査報告



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目   次

中心市街地の空洞化が進行していく基本的な要因
その都市の将来像と中心市街地の空洞化
市民にとっての中心市街地
福島県中心商店街空洞化対策事業調査報告−調査の目的と意義
福島県中心商店街空洞化対策事業調査報告−基本理念
福島県中心商店街空洞化対策事業調査報告−ケース・スタディー
福島県中心商店街空洞化対策事業調査報告−初期の事業化検討方針
福島県中心商店街空洞化対策事業調査報告−歩行回遊軸と施設内容
福島県中心商店街空洞化対策事業調査報告−事業化検討結果概要
福島県中心商店街空洞化対策事業調査報告−事業化対象1
福島県中心商店街空洞化対策事業調査報告−事業化対象2
福島県中心商店街空洞化対策事業調査報告−事業化対象3
福島県中心商店街空洞化対策事業調査報告−事業化対象4
福島県中心商店街空洞化対策事業調査報告−事業化対象5
福島県中心商店街空洞化対策事業調査報告−事業化対象6
福島県中心商店街空洞化対策事業調査報告−事業費概算一覧表
福島県中心商店街空洞化対策事業調査報告−都市規模との比較検討
福島県中心商店街空洞化対策事業調査報告−都心居住のスキーム
福島県中心商店街空洞化対策事業調査報告−提言

 

福島県中心商店街空洞化対策事業調査に先立って



 中心商店街空洞化対策事業調査報告書を作成するに先立って吾々は幾つかの事柄を確認
しておかなければならない。まず第一に中心市街地の空洞化が進行していく基本的な要因
についてどのような認識をしているか、第二にその都市の将来像に中心市街地の空洞化が
どのように係わってくるか、第三に市民にとって中心市街地とは何であるかという3点で
ある。

【中心市街地の空洞化が進行していく基本的な要因】
 第一の中心市街地の空洞化が進行していく基本的な要因は都市化の拡大進行と密接な関
係を持ち、中心市街地の地価の高騰が引き起こした現象である。現在迄のところ、土地の
高度利用や交通の利便性確保は全く空洞化抑止策としては機能せず、ますます土地の高騰
を招く原因となっている。その結果、若年層が新たな生活を求める場とはなり得ず、土地
の既得者のみが取り残されることになり、さらには不在地主の増加するという現象を招い
たというのが実際である。いまや、中心市街地に生活する者は個人的資力の範囲で自らの
生活環境を再整備をする力さえ失ってしまったかのようにさえ見える。新たな購買層を形
成する若年層の郊外流出は商店街の基本的地力の低下を意味する。
 また、一見よさそうに見える土地の高度利用や交通利便性の確保も決して良い方向に作
用してはいない。土地の高度利用を目指した大規模再開発は、土地所有者以外の店子や借
家人達を結果として保留床の高騰という理由で駆逐してしまい、住民不在・路線商店街の
歯抜け現象という形で、空洞化を促進するという逆転現象を招く要因となっている。道路
の拡幅も基本的には路線商店街にとっては大敵となる。路線両側の商店街が成立し得る道
路巾は 10 m 程度と考えられ、それを超すと片側商店街としてしか機能しなくなるだけで
なく、淀みのない流れは賑わいを演出しはしないからである。そうした意味で、高度化資
金融資、商店街の近代化資金融資というこれまでの施策が必ずしも有効に機能したとはい
い難い面がある。
 このような欠点は、地主にとっては結果として喜ばれているとされる区画整理において
端的に顕れる。道路整備およびインフラ整備が何よりも優先される区画整理においては、
土地の単価が確実に上昇し、土地所有者にとっては確実に有利な条件となる。しかし、借
家人にとっては長期の他所住まいと従前の生活地の家賃の上昇で、結果として転出を余儀
なくされるからである。生活環境の整備を目的とした事業が図らずも住民不在の原因にな
るという皮肉な結果になっている。恐らく、区画整理と住民の生活を主体とした開発が一
体として検討されていたら、このような皮肉な結果とはならなかったことであろう。
 こうしたことを認識した上で、これまでの活性化策がなぜ具体性を持ち得なかったのか
を検証する必要がある。
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【その都市の将来像と中心市街地の空洞化】
 いずれの都市においても、その都市の将来像を総合計画として発表しているが、これま
でに実施されてきた活性化対策が都市のあるべき姿を具現化するためどれだけの役割を担
っているかということが大きな鍵となってくる。これまで、都市総合計画を前提とした基
礎調査には、住宅マスタープランを初め数多くの調査が見られ、都市のあるべき姿につい
て多くの提言がなされると同時にさまざまな事業化計画が建てられている筈である。各都
市とも、そうした提言や個々の事業化計画がお互いに総合計画の中でどのような位置付け
に置かれているかを確認する作業が必要になる。現状では未だ都市マスタープランが策定
されていない都市も少なくないが、その都市マスタープラン策定経過の中で、既設定の上
位事業化計画と活性化対策の整合性を確実なものにしていく必要があろう。
 しかし、現実に行われている活性化対策は充分に都市のあるべき姿を具現化する計画と
して検討されたものかどうかが明確にはされないまま進められている。コミュニティー道
路の整備や道路拡幅など、それによってどのような都市骨格が形成されるのか、中心市街
地の果たす役割は何であるのか、そのためにどうあるべきかといったことなどについて明
確なビジョンが与えられる必要がある。都市基盤整備という名の基にさらなる外延化が進
んでいる現在、外延部における新しい基盤整備と中心部における老朽化した基盤とのアン
バランスに関する将来的取り扱いの是非につ
いて充分な検討がなされなければならないが、現状ではそこまでの情況には至っていると
はいい難い。
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【市民にとっての中心市街地】
 都市のマスタープランを作成するに当たっては住民参加という点が重要なポイントにな
っているが、この住民参加の意味するところは何かをよく考えてみる必要があろう。これ
までにも、アンケート調査や地区ごとの分科委員会活動を初めとして、さまざまな形式で
住民意識の汲み上げが図られてきたが、これまでの町づくりにおいて、その意識調査の結
果が充分に都市計画のに中に反映されてきたとはなかなかいい難い。
 あらゆる基本的な提言は、恐らくこれまでの調査報告書の中にすでに折り込み済みのこ
とと思われるが、その提言が行政側の施策と市民の期待を結ぶ太いパイプを形成するまで
に至っていない。その理由は、同じ提言に関して行政側からなされる理解と市民の希求と
の間にズレがあるということに因る。すなわち、両者の立脚点の違いを充分に認識した上
での情報開示が行われていないため、地区住民側の利害と都市全体の中での地区の立場と
いった観点にたった市民側からのフィードバックがほとんどなされないことに起因する。
恐らく、改めて「市民参加」といわれても、行政側にしろ住民側にしろ戸惑っているに違
いない。ここでは、「コミュニティー形成理念」、「生活ネットワーク形成」、「都市の
文化性」などに対して市民側から積極的な提言がなされ、都市マスタープランの中での地
域・地区整備計画の基盤的役割を果たす必要がある。そのためには、町内会長とか地区代
表といった一部長老だけの意見が突出しない配慮が必要になる。
 たった一つの小さな意見でもその有効性を活かしたいという意味で現在ワークショップ
の必要性が叫ばれている。
 地区住民は市民の一員であって、単なる地区の利害超えて、市民としての責任を充分認
識する必要があり、行政は市民との太いパイプを造り上げることに腐心する必要がある。

 以上で指摘した事柄は決して目新しいものではなく、いままでに誰もがその事実を認識
していた筈であり、そうした方向に向けて努力を惜しんできたものではない。事実、必要
なデータや対策案などは山積みになっているといっても過言ではなかろう。それにも係わ
らず具体策が提案されない原因は下記のような理由によるものであろうと推測される。
(1)行政が考える町づくりの姿勢と住民が考える町づくりの間にギャップがある。
(2)中心市街地がその都市の文化性を顕し、都市の顔としての機能を有するといった役
  割に対する市民の意識が確立されていない。
(3)生活基盤のリニューアル、維持更新に対する枠組みが整理されていない。
(4)各種補助制度の多角的利用マトリックスの整理がなされていないため、具体案の有
  機的融合が難しい。
(5)土地価格に見合っ民間活力や公的資金の導入の有効性が検討されていない。
(6)若年層の都心居住などを含めた購買層を確保するなど、商業基盤を確立するための
  有効な手段が講じられていない。
(7)再開発をも含めた具体的費用を伴う事業化手法のサンプルが提示されない。
(8)その他 高齢化による事業意欲の喪失など。

 これまでに提案されてきた数々の「中心商店街空洞化対策」は、それぞれの対策につい
て都市のグランド・マスタープランの中における有機的連携が充分検討されることなく進
められてきたかの感を免れ得ない。結果として、公的資金の投資はコミュニティー道路の
整備という形でしか表出されず、その行き先はまったく霧の中という情況であった。
 また、都市全体の動線計画にあっても、その中心は車による移動であって、人の回遊性
についてはその視点から外れた情況にあった。すなわち、道路拡張と駐車場対策に終始し
ていたといっても過言ではない。そうした考え方の下では、中心市街地にあるべき多くの
商業施設は、必然的に駐車場併設が容易な郊外型店舗へと移行・展開されることになる。
 そうした情況を変えるためには、従来型の商業施設に対する固定観念を捨て去る必要が
ある。「公的機能と商業機能の融合を前提とした施設に挟まれた従来型路線商店の設定に
よる回遊性の誘発」、「店舗前面における開放型の屋台的使用による仲見世的展開」は一
つの発想転換になるのではなかろうか。

 『都市中心市街地活性化対策策定への流れ』はそうした情況を意識した上で、活性化対
策の具体化へのフローを示したものである。先にも触れたように、基本的データや事業内
容については既になされた調査・提案事項を蒐集・整理することで相当程度対応可能と判
断される。長方形ラインより上がそれに相当し、これから必要な作業はそれよりしたに示
した部分に相当するものと考える。特にこの中で、前述の(4)に示した補助制度の多角
的利用マトリックスの整備は特に行政の横の繋がりとして整備されるべきものとして期待
される。また、再開発へのキーワードの形成は、譬えそれが公的施設であったとしても、
市民サイドからの理念確立という観点にたったものであることが期待される。この両者が
一体化して初めて具体性を持った事業化が可能になる。特に、都市の維持・更新システム
をプログラミングする際に、日常生活維持施設と公的社会支援施設が組み合わされた再開
発プログラムとして設定されることが取り分け有効な手段と考えられよう。
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福島県中心商店街空洞化対策事業調査報告


調査の目的と意義

目的

 本調査の目的は、現在、歯止めの効かない都市における中心商店街の空洞化進行情況に
対する骨太な対策とその必要性を提案するための基礎的調査である。また、ここで提案さ
れる内容は、その都市の規模と特質を充分把握した上で、都市マスタープランの中で検討
されるべきものと位置づけられる。

意義

 これまで試みられてきたインフラ整備を含めたさまざまな施策は、その実行性の是非を
別にして、現実に都市の外延化と中心市街地からの人口流出の歯止めとはなっていない。
その結果として、都市の中心部における商業は風前の灯火とでもいったら良い情況にまで
追い込まれている。
 現在の市街地中心商店街の落ち込みは多くの要因が重層的に組合わさった結果のことで
あるが、その大きな要因の一つである
 @魅力ある交流の場の欠如
 A都心人口の減少(都心の外延化)
の2点に焦点を当てた都市の将来像に関する検討は、今後の中心商店街の空洞化対策に大
きな突破口を開くものと期待される。
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空洞化防止対策に対する基本理念

 福島市を対象とした中心商店街空洞化防止対策策定調査の結果は一つのケース・スタデ
ィーにしかすぎないが、たとえそれが一ケース・スタディーであったとしても、福島県内
の各都市に対して中心商店街活性化の基本的取り組み方を示す参考資料として提示される
ことを以てその第一義とする。
 基本的な考え方として次のような手順を経るものとする。
1.中心都市軸とそれを取り巻く歩行を前提とした回遊性の確保による都市骨格の形成
2.隣人の顔が見える地区コミュニティーの確保
3.歩行圏内における日常生活の確保
4.住民サービス機能の確立と地区特性の演出
5.地域内外交流人口の確保と地域社会の顔づくり
6.外周部幹線道路からの自動車交通の吸収
 このうち、1〜4は地域社会の基本的購買力の増強を企図するものであり、5は流入人
口の増加と周辺地区への波及効果ならびに地域の魅力づくり、6は中心部の歩行空間の確
保と外来者の便宜を図ることを企図するものである。図−1はこのような情況を踏まえた
上での都市骨格の捉え方を示す。
 図−1において都市骨格の明確な構成要素を検討すると、駅前広場を中心に据えたセン
ターコア(地域社会の顔と交流施設を具備する空間)とサブターミナルなどを結ぶ骨太な
都市中心軸を構成し、その中心軸を取り囲むように設けられたサブコア(地区コミュニテ
ィーの中心となる)を結ぶ回遊軸が都市骨格を形成する。駐と記された部分が車によるア
クセス空間で、駅前空間と回遊軸の外周部の幹線道路に近接した場所に設置された大型駐
車スペース(公的支援による複合施設)とし、中心部の歩行空間をいたずらに侵害するこ
とのないように配慮するものとする。
 なお、中心商店街への車によるアクセスは、それを徒に禁止するものではなく、歩行回
遊軸に直交する形でラダー状に設定し、車の動線と歩行道線が同軸上にこないように配慮
する必要がある。
 このような考え方を福島市に当てはめた場合、こうした歩行回遊軸の一つがパセオ通り
商店街であり、全体の都市骨格は図−2に示すような情況になろう。さらに、これを都市
のイメージマップとして示したものが図−3である。
 また、それぞれのサブコアはその地域社会に即応した規模とすべきで、図−4で示され
た日常生活に必要な各地区共通施設と地区特性支援施設ならびに地区特化施設の組み合わ
せによって構成されるもので、いたずらに高度利用を目指すものではない。すなわち、こ
こでいうサブコアは周辺地区からの集客を目的とするものではなく、地区内における生鮮
食料品市場的な存在であり、それと組み合わされた居住施設が公的支援施設との融合のも
とにいかなるコミュニティー・コアを創り出すかということに過ぎない。これらを適宜配
置した結果として、このコミュニティー・コア同士を結ぶ廻遊軸に対する連続性を生み出
し、都市に厚みを与えることを想定したものである。決して、サブコアそのものに多大な
集客性を求めるものではないことを強調しておきたい。
 そうした都市骨格を踏まえた上で、前述5の地域交流施設や顔づくりの対象となる施設
を配置するようにする必要があり、この施設が対処療法的に扱われただけでは良い結果は
得られない。それが有効性を発揮し得るか否かは、その都市の置かれた情況の分析如何に
因るものといわざるを得ない。福島市のようなある程度の規模を持った都市にあっては、
駅前広場と連携する空間としてコリドーに囲まれた青空市場的なイベント広場や女子大あ
るいは社会人教育との連携をも配慮した大学のサテライトなどが考えられる。また、民間
医療支援センターなども文化都市を演出する大変有効な施設と考えられる。
 こうした事業を系統的に具現化させることが、いま中心商店街の活性化にとって急務で
あり重要な役割を果たすものと考え、その可能性を検討するものである。このような検討
内容と住民サイドの積極的プロジェクトと融合したものが、都市マスタープランと緊密に
機能しあった形で都市骨格が形成されることが必須不可欠となろう。

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福島市を対象としたケース・スタディー

 次の二つのキーワードを軸とした検討を行った。
1.周辺への波及効果を狙った民活・行政複合施設としての大規模交流施設の可能性
2.回遊軸を確保した都市骨格の形成と都心居住の促進

         中心市街地の範囲設定
             ↓
       地区コミュニティー範囲の設定
             ↓
       地区コミュニティー核の位置設定
             ↓↑
           回遊軸の設定
             ↓
          地区核の内容設定

 キーワード1の大規模施設の検討にあっては、施設そのものの検討もさることながら、
大規模複合施設を具現化するためにどのような補助事業を融合することができるかという
ことが重要な検討の対象となり、類似の手法は小規模な都市にとって大変有効な手段とな
る。こうした考え方はキーワード2のサブコアの場合にも踏襲され、それぞれの施設が周
辺の環境整備の起爆剤となることを企図して、さまざまな補助事業の融合を検討する必要
がある。
 今回の中心商店街空洞化対策事業報告書の策定にあたっては、こうした認識の下に各地
区事業の収支について検討し、事業化の可能性を探ることとした。

 

福島市における事業化検討対象地と歩行回遊軸と施設内容

 福島市における事業化検討対象地と歩行回遊軸と事業化検討対象地における施設内容を
図−5に示す。
 事業化検討対象地域に設置すべき施設(店舗他)内容は検討ワーキング・グループ全員
のワークショップによって抽出されたもので、日常生活に欠かせない必需施設である「各
地区共通施設」と、地区ごとの特性を演出する行政支援施設などを考慮した「地区特有の
施設」との組み合わせによる。
 「各地区共通施設」では、車で郊外に買い物にでることが大変になりつつある高齢化社
会の進行を考慮した上で、夜間診療支援施設を含めた、車で郊外に買い物に出ることが大
変になりつつある高齢者であっても、歩行圏内である地区内で特別な不便を感ずることな
く生活することが可能な利便施設を意味する。また、「地区特有の施設」では、巡回デイ
サービス拠点、シニア対象のグループ・ハウジング、コミュニティーセンターといった住
民サービスを中心に据えた施設を意味する。
 ここで設定された歩行回遊軸は路線商店街単位としては少しく長いが、これは中心市街
地として設定されたエリアが図−4であることからくるもので、それぞれ小さなコミュニ
ティーエリアとしての核設定を行った結果である。一つの商店街単位を 400m 程度と考え
ると、 800〜1,000m 程度が一つの核施設による影響範囲と考えられて、核と核との間に
最低一つ以上のポケットパークなどの施設を設けることによってそれぞれの路線商店街を
関連づけてやる必要がある。

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福島市における初期の事業化検討方針

 福島市の現況を踏まえた上で、歩行回遊性の確保を考慮しながらサブコアの内容を想定
した結果、提示された内容を次に示す。

1.民活・行政施設の複合化による中心商店街の大規模交流施設
    ふれあい交流施設  2,000 u     市民ホール 収容人員  1,000 人
    イベント施設     600 u     市民サービスセンター   200 u
    シルバーハウジングを含む住宅 100〜200 戸   立体駐車場   150 台
    保育所などの公共施設ならびに店舗  広場
2.中心商店街周辺の大規模駐車施設
    商店街経営の大規模駐車施設  200〜300 台
3.大規模な行政施設を中心とした介護・学習・住宅複合施設
    デイサービス施設   700 u     在宅介護支援センター   85 u
    ヘルパーステーション 50 u     公営住宅 30 世帯  2,400 u 
                   (デイサービス他公営住宅まで合築を考慮)
    地区4民間医療施設ならびに新規最寄商店4〜5店舗集中化  450 u
    約 20,000 u の2〜3棟の分散型公営施設
4.回遊性確保のための巡回デイサービスを含む拠点施設
    デイサービス施設   700 u     シルバーハウジング  20 戸 
    特公賃3LDK     10 戸   コミュニティーセンター・店舗・駐車場
5.民間資金主体の住居を見据えたパティオ型事業
    5〜6階建の店舗併用住宅(地権者・自治体借り上げ・賃貸住宅)
6.民間独自資金による人工地盤・半地下型店舗併用住宅
    人工地盤による駐車場の屋上は庭園とする

 上記の施設内容は、福島市にあって都市景観上好ましいと考えられる集住スタイルを想
定したものであるが、必ずしも事業採算上の適正規模であるとはいいがたい。特に【事業
化対象1】の大規模交流施設においては、「周辺への波及効果を狙った民活・行政複合施
設」としても、「回遊軸確保した都市骨格の形成と都心居住の促進」を前提とした施設と
しても中途半端な条件設定であることは否めない。この部分については地価があまりにも
高過ぎるため、一般的な再開発における採算性を云々する以前の情況である。そうした中
で事業化を成立させるためには、全市民が納得した上での公的資金の投入を前提とした施
策が必要となる。すなわち、住民サーヒース施設・ポケットパーク・公営駐車場といった
施設との融合させることによって、店舗・住宅部分の建設コストの逓減を図るのも一つの
方法である。しかし、そのためには住民の大きな意識改革が必要になる。
 一方、これまでの再開発が常套手段としたように、大規模な保留床を出現させ、その処
分金によって採算性を確保するのも一つの方法であろうが、この手法を前提とした場合に
は、都市はさらなる外延化を招くことになる。
 このような判断から、当初から上記六ヶ所の事業化の検討にあたっては、その事業採算
性を幾分なりとも考慮したとするなら、さまざまな点で矛盾を孕んでいた。そのために当
初の検討内容を変更せざるを得なかったが、その変更の中にこそ空洞化対策に必要な要素
が内在しているものと考えられる。
 そうした変更がさまざまな部分で指摘されはするものの、今回の対策事業調査報告書に
おいては、この提示規模をたたき台として、どこまで低価格の都心居住が可能かを検証す
ることが目的である。そこで、本調査報告では、中心市街地における床単価を郊外の床単
価と同程度に固定した場合の事業化の可能性を検討することとした。その結果、実際の検
討内容は、当初提示の施設内容から相当に距離のある検討案とならざるをえなかったこと
を申し添えておく。
 図−5は上記1〜6の事業対象地を福島市の都市計画地図上にプロットしたもので、回
遊軸もそれに沿っている。

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福島市を対象とした事業化検討結果概要

[事業化対象1.民活・行政施設の複合化による中心商店街の大規模交流施設]

          計画理念と施設概要ならびに概念図         1ー1頁
          概算事業収支の検討                1ー6頁
          賃貸事業収支                   1ー8頁
 当該地区の地価は予想以上に高く、いかに建設費の基本的部分を公共施設に頼ったとし
ても、住宅や店舗の床単価を郊外のそれと同程度に抑えるためには、公共施設の床単価が
あまりにも高くなり過ぎるきらいがある。それを避けるために、追加施設として大型ホテ
ルの導入を提案すると同時に定期借地権 50% を設定しており、保留床取得者の負担(一
時金)を[建築費+定期借地料](地代は不要)とすることによって軽減させることを提
案している。
 なお、対象となる敷地面積が 13,800uとやや大きめであるが、これは当該地域の商業
落ち込みに対する緊急性と波及効果の両面からの配慮によるもので、旧来の地元商店街を
吸収するものではない。しかし、これを有効に活用できるか否かは立地と地元商店街との
連携ソフトの整備いかんに懸かっており、必ずしも中央部から外れたこの場所が適当であ
るかどうかも問題となってくる。
 また、近くに幹線道路地下の大型駐車場建設が予定されているが、その駐車場が対象と
する情況と当該施設の駐車場とは役割所大きな開きが存在する。当該施設を目的で来訪す
る者にとって施設内駐車場の存在は必須不可欠出あろう。
 ただし、こうした大規模施設の導入が適切であるか否かは、その都市のグランドマスタ
ープランとの係わりのなかで充分に検討される必要がある。

 この地区の検討は、当初の提示条件より大幅な規模変更を余儀なくされたが、これは当
地の土地価格が2,11.57万円/坪と異常に高いことに起因する。仮に低層化を実現するた
めの施設と考えると、計画対象敷地面積約 8,000u 、市民ホールなどを含めた公共施設
約 7,800u 、アトリウム的空間(定期市開催やイベント開催を目的とした半屋内公園)
2,000u 、駐車場 4,500u 、公営住宅 16,000u を公共単独土地買い上げ事業として計
算すると、土地購入費約 511,000 万円、市民ホールなどを含めた公共施設約 153,000万
円、アトリウム 18,000 万円、駐車場 55,000 万円、公営住宅 266,000万 、事業費総
計1,003,000 万円+α(設計料、補償費は含まず)という金額になる。
 こうした公的支援空間と旧路線商店街を連結させるのも有効な手段と思われる。

 ここで重要なのは、「異常に高騰した価格帯の土地にいかなる公的支援が可能か」とい
うことにつきる。そこには定常的購買力を伴った管理職員付の公的施設が求められるが、
指し詰め、国立大学の社会人教育を見据えた大学院サテライトとか4年制女子大学などの
高学年部門は有力な候補といえる。やや大き過ぎるきらいのある店舗面積やホテル客室面
積などにこのような施設を充当させられる可能性も充分にあり得る。
 前述の定期借地権の設定は、底地の所有者が公共であるときに大きな威力を発揮するこ
とを考えると、底地を公共が取得した上での定期借地権付民間施設は非常に有効な手法と
して提案される。
 また、大型のイベント広場を設置し、定期市やイベントなどの運営管理は地元住民に委
ねるのも一つの方法であろう。


[事業化対象2.中心商店街周辺の大規模駐車施設]

          計画理念と施設概要ならびに概念図     2-2,2-7A,2-11B頁
          概算事業収支の検討                 2-5AB頁
          賃貸事業収支                  2-8,2-12頁
 [事業化対象2]は、[事業化対象1]とのあいだに旧来の商店街を挟み込むような形
で幹線道路沿いに配置され、正面一階部分商店を設置することで路線商店街を連続させる
ように配慮し、バスストップ機能(ミニバス・ターミナル的機能)も付加している。
 事業化検討資料としては、商店の続く街路を挟んで地下駐車場で連続させた2ブロック
を一体化した計画と、街路を挟んだそれぞれの敷地における独立した施設としての計画を
検討。
 独立した駐車場については資金計画からキャッシュフローを含んだ投資採算性の検討を
も加えている。収支が経年変化を考慮しない場合と考慮した場合との2種類用意したが、
現在の社会情勢を鑑みるに、年 5% upは考慮に入れない方がよかろう。


[事業化対象3.大規模な行政施設を中心とした介護・学習・住宅複合施設]


          計画理念と施設概要ならびに概念図         3−1頁
          概算事業収支の検討             3-12A,3-16B頁
          計算根拠                  3-14A,3-16B頁
 当該敷地は現在大規模な公共施設が存在する場所で、区画整理事業が進行中の場所でも
ある。そうした意味では、施設計画そのものが区画整理事業の進行と密接な係わりを有す
るもので、周辺整備の起爆剤としての役割を充分に認識する必要があるところでもある。
 このような事情を踏まえて、ここでは図書館機能の充実ならびに地域福祉の拠点的機能
の整備、地区民間医療支援の充実などを含めた複合的整備を提案している。公営住宅など
住宅供給については量的にかなり抑えた提案になっているが、これはさらに周辺整備計画
の中で暫時提案されていくものと考え、ここでは起爆剤的役割に徹することとする。
 本事業化検討案のなかで、商店の坪単価が相当程度安く設定されているのは、新規商店
の誘致ではなく、既存商店の再入居を想定してのことである。

 なお、公共施設の規模からいって用地買い取りも考慮に入れる必要があるが、前述のよ
うに周辺整備の起爆剤と考えるなら、再開発手法を適用した方がより効果的と判断した。


[事業化対象4.回遊性確保のための巡回デイサービスを含む拠点施設]

          計画理念と施設概要ならびに概念図         4−1頁
          概算事業収支の検討           4-7A,4-18B,4-22C頁
          計算根拠                4-9A,4-19B,4-23C頁
 回遊性確保のための施設としては、交差点を取り囲むような形での施設展開がビスタを
確保する上で有効な手法と考えられる。そこで、今回は交差点を含む3方向の敷地全体を
再開発した場合にどのような形になるかを前提として検討を加えた。結果として、Aブロ
ック、Bブロック、Cブロックの3事業の形態を採っているが、それぞれに特徴をもたせ
ることに留意した。それぞれのブロックにおける検討事業内容を下記に示す。
 Aブロックでは、一部公営住宅を含むが、主として地権者の組合による路線商店型ウォ
ークスルー商店。実行容積率が 203.3 %と低いため、店舗床価格が 462.2 千円/uと
高めに設定され、さらに商店街振興支援制度の適用が要求される。住宅・駐車場の床価格
は高過ぎるので、民活前提では事業化が難しい。
 Bブロックでは、公営住宅と公営駐車場を種地にした再開発。商業地としての土地のポ
テンシャルは高いので、パティオ事業は採択される可能性が高い。しかし、特優賃住宅部
分における延べ建築工事価格は 245.9 千円/uとやや高めのため、民間ベースで経営す
ることは少しく難しい。
 Cブロックでは、コミュニティー・センターや公営住宅、巡回デイサービス・ステイシ
ョンなどの公共施設を中心に据えた複合施設に既存商店に加えて必需品供給商店を設置。
供給されるべき店舗は、既存の特定商品取り扱い店舗に加えて、日常生活必需品提供店舗
を1階に、その上階にシニア住宅などを配置する形態をとっており、採算性を考慮に入れ
て、階数規模当初より若干増えてはいるが、最小限の増加に留め7階建に抑えている。こ
こでは特優賃住宅の床価格を 228.6 千円/u(家賃は1,500 円/u程度)、シニア住宅
を245.6 千円/u(家賃は1,800 円/u程度)と設定しているが、シニア住宅について
はいま少し低価格設定にする必要がある。
 ただし、Cブロックにおける配置計画上は、交差点を取り囲む円形のパティオ的空間を
メインとして、裏側に拡がる中庭状の広場は複合コミュニティーセンターに対する市民広
場とする。あくまでも商業空間は既存道路側をメインとする。

 当該事業対象地は、全体としてかなり大きな対象敷地となっているが、当初の事業化検
討規模はCブロック一つでほぼ満足されており、A・Bブロックは核と核をつなぐ上で有
効な事業化の可能性を探ったものである。
 もし、交差点の地下を駐車場として繋ぐか、空中で道路を跨いで連結されたスーパーブ
ロックとしてCブロック程度のものが計画可能なら、この事業化の持つ意味は大きなもの
となろう。


[事業化対象5.民間資金主体の住居を見据えたパティオ型事業]

       計画理念と施設概要ならびに概念図        5-1,5-21,5-38頁
       概算事業収支の検討  5-9,5-17,5-26-5-31,5-34,5-43,5-47,5-51頁
       計算根拠      5-13,5-18,5-27,5-31,5-35,5-44,5-48,5-52頁
 当該地区でも、回遊性確保のためのビスタを重視した結果、対象地域を拡大して検討し
た。すなわち、交差軸にポケッとパーク的空間を演出するように配慮した。その考察過程
を5−1、5−2、5−3の三段階の資料で示している。5−1では4ブロック全体で一
事業を形成するが、5−2、5−3では三つのブロックに分けて、それぞれのブロックご
とに事業収支を検討した。その結果、都市規模から判断した場合には5−1のスタイルが
好ましい(図−6)が、採算性を重視した場合には5−3にせざるを得なくなる。
 いずれの事業化対象にあっても同じことであるが、民間主体で中心市街地に低価格の床
を提供しようとすると、処分不可能な量の保留床をつくり出さざるを得ず、都市の適正規
模を大きく逸脱することになる(図−7)ということが、本事業対象の検討でよく理解で
きる。

 この地区の情況は、最も一般的化し易い情況にある事業化対象地であり、公的施設との
併用を前提とした設定条件を考慮すれば、地方の中小都市にとって比較的実現性の高い規
模である。恐らく、維持更新の周期を同一周期になるように考慮した定期借地権付再開発
であるなら民活の可能性も非常に高いものと考えられる。
 特に有効な手法の一つは、民間所有の底地に特約付き定期借地権設定の汎用性の高い公
共施設を建設し、底地所有者の希望によって返還時期に建物残存のまま底地返還(更地と
して返還が原則)という場合。いま一つは、公共取得底地への定期借地権設定民間施設を
建設し、一定期間安い床価格での保留床を提供した上で、環境を保全するための定期的維

持更新が可能になる場合。ただし、底地所有者が複数の場合は縦割り区分にするなど、期
限の違う権利所有が錯綜しないように配慮する必要がある。
 今後、良好な都市環境を維持していくためには、このような公的資金投入の可能性を充
分に検討する必要があろう。


[事業化対象6.民間独自資金による人工地盤・半地下型店舗併用住宅]

          計画理念と施設概要ならびに概念図         6ー1頁
          概算事業収支の検討              6-6B,6-8C頁
          計算根拠                   6-7B,6-9C頁
 今回の事業化対象1〜6の検討を進めるに当たって、その可能性と検討の指針とするた
めに試算した結果を始めに提示しているが、ここでは建設費などの基本的資金計算の基準
を統一してはいない。また、市場性確保を前提とした建設規模や床単価の試算と見るべき
資料となっている。

 本事業化対象にあっては、中心商店街を取り巻く都心居住推進地区の一般的モデルを示
している。特に、区画整理対象地域における誘導手法としての市街地再開発の可能性を提
示するものである。
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事業費概算一覧表

事業対象
  地区
土地価格
(千円/坪)
店舗数等住宅戸数施設面積
 (u)
事業費
 (千円)
駐車
台数
1地区   2,115.713,900.0u   22683,610.020,218,977 580
1地区定借   1,057.613,900.0u   22683,610.018,709,818 580
2地区   1,401.715,740.0u  − 27,830.005,797,902 388
2−1地区
   定借
    700.813,300.0u  − 17,030.003,793,748 108
2−2地区
   定借
    700.801,220.0u  − 10,800.001,679,827 280
3−A地区    635.0  −    60 43,550.014,117,000 293
3−B地区    635.0   16戸   9614,400.005,843,000  79
4−A地区    694.2   10戸   45 05,900.001,723,700  30
4−B地区    760.3   16戸   60 08,200.002,447,000  30
4−C地区    661.1   12戸   81 11,350.003,206,600  30
5−1地区    661.1    6戸   28 04,170.002,684,047  41
5−2 
  A地区
    661.1    6戸   80 09,444.002,501,181  33
5−2 
  B地区
    661.1     0   40 04,688.001,291,586  19
5−2 
  C地区
    661.1     0    0 01,395.000,518,212  27
5−3 
  A地区
    661.1    6戸   14816,758.003,584,922  55
5−3 
  B地区
    661.1     0   5507,560.001,711,657  23
5−3 
  C地区
    661.1    4戸   42 05,427.001,245,009  26
6−1 
  B地区
   −   −   −   −    −   
6−2 
  B地区
    1,091   10戸   90 12,900.003,627,500  80
6−2 
  C地区
     992    4戸   88 09,798.002,930,800 −


 上記の事業化検討において、このプロジェクト全体として低価格住宅の提供を前提とし
た結果、公共施設との融合を図った事業化の場合、従前の土地所有者はいずれも、従前の
権利床よりは若干減少しはするものの、然程の自己負担を強いられなくても再入居が可能
となる。また、従前の借家住まいや貸店舗入居者にあっても同様、再入居がに当たって、
然程障害になるものではない。
 例えば【事業化対象5−A】を対象として権利変換モデルを考えてみると下記のように
なる。

   従前の資産 土地個人所有  200 u  土地単価  200.0 千円/u
         RC建造物   240 u  建物評価額 100.0 千円/u
   従前評価額
    200 u × 200.0 千円/u + 240 u × 100.0 千円/u = 64,000.0 千円
   設定条件  土地共有または文筆所有
         建物区分所有 店舗  120 u
                住宅  120 u
   従後資産(従前と同一面積取得の場合)
         店舗 290.5 千円/u
         住宅 208.2 千円/u
    120 u × 290.5 千円/u + 120 u × 208.2 千円/u = 59,844.0 千円
   自己負担額=従後資産額−従前資産額
         59,844.0 千円 − 64,000.0 千円 = −4,156.0 千円

【事業化対象5−C】では同じ条件で床価格の算定をすると
         建物区分所有 店舗  120 u
                住宅  120 u
    120 u × 829.8 千円/u + 120 u × 220.0 千円/u = 125,976.0千円
   再入居者負担額=床取得必要金額−従前資産額
         125,976.0 千円 − 64,000.0 千円 = 61,976.0 千円
     この場合は自己負担金が相当額になるため、再開発事業としての成立条件から
     著しく逸脱しているといわざるを得ない。

 住宅のみ取得の場合は 240 u の床を取得するものとして必要な資本
         240 u × 220.0 千円/u = 52,800.0 千円
   入居者負担額=再入居に必要な資本−従前資産額
         52,800.0 千円 − 64,000.0 千円 = −11,200.0 千円

 すなわち、【事業化対象5−C】では、再開発後の住宅床をむりやり低価格に抑えたこ
とが大きな矛盾となって表出したものであり、ここでは公共による土地取得の上の事業化
以外に考えられないことになる。

 ただし、数名の地権者が集まって自力更新をするような場合はこの限りではない。


 なお、今回のプロジェクトは、最初の設定条件からして平均値的想定のもとに収支計算
を行っているが、土地の所有情況などは細かく設定していないので、個々の条件に合わせ
た事業収支は新たにプロジェクトを組み上げていかなければならない。
 しかしながら、【事業化対象3】のような大部分行政が所有する土地に大規模な公共施
設を建設する場合であっても、単独の施設を建てるよりも複合的施設として再開発の中で
建てた方がより有利になるものと思われる。
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都市規模との比較検討

 福島市にあって、1の「民活・行政施設の複合化による中心商店街の大規模交流施設」
のようなものが旧市街地に忽然と現れて良いかどうかは充分に検討されて然るべきである
が、未だはっきりとした商店街形成がなされていない駅の西側にあっては、都市の新しい
顔として充分に機能することと考えられる。
 なお、福島市の駅東側旧市街地に接する地区にとっては、コリドーに囲まれた青空市場
的なイベント空間や女子大あるいは社会人教育との連携をも配慮した大学のサテライトな
らびに民間医療支援センターなどを配置し、さらに一ブロック東側にサブターミナルなど
を配置するのも、文化都市を演出するための中心都市軸を形成するのに大変有効な手段と
考えられる。
 このような中心都市軸に、2〜5のサブコアを組み合わせた歩行回遊軸を組み合わせと
多世代混在型の住宅群の配置を前提とした都市骨格の形成が、中心市街地への住民の回帰
を呼び起こし、都心居住といった基本的購買力の増強を生み出すものと期待する。そのな
かで、6はサブコアとサブコアのあいだにあって民活の可能性を示唆したものとなってい
る。
 上記のような都市骨格を考えると、駅を挟んだ東西に二つの性格を異にした町の演出が
可能になる。

 また、サブコアを形成するほどの規模には至らない小都市にあっては、商店の規模を考
慮しつつ【事業対象1】のような形態の大規模交流施設を誘導するよう図るのも有効な手
段とされようが、【事業対象4】および【事業対象5】の組み合わせだけでも充分に機能
するものと判断される。
 しかし、本事業化検討案は、そのいずれにしても事業採算性を前提とすれば規模が大き
くならざるを得ず、民活だけで成立しないことは火を見るより明らかであるということを
念頭においておきたい。
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福島市における都心居住のスキーム

検討結果における住宅供給戸数の妥当性

 福島市における平成 12 年までの新規住宅需要総数は大凡 14,000 戸という数値が示さ
れている。その内訳は、転出率を 0 % と仮定して公営住宅 800 戸、民間借家 5,000 戸
と想定されている。この数値を前提に考えると、新規住宅需要総数の約2割を都心居住に
充当させたとすると、新規供給総戸数 28,00 戸、公営住宅 160 戸、民間借家 1,000 戸
という数値を得る。しかし、中心市街地の空洞化はさらに進行傾向にあることに鑑み、公
営住宅の供給量を少しく引き上げる必要があろう。恐らく、行政借り上げ住宅やシルバー
ハウジングのような高齢者対応支援住宅の数を 300 戸程度は用意することが検討される
べきではなかろうか。
 本報告で扱った新規投入住宅戸数を一覧表にすると下記のようになる。

  供給住宅総数 公営 分譲住宅公営 賃貸住宅民間 分譲住宅民間 賃貸住宅


一般    693
シニア   70
シルバー  −
一般    75
シニア
シルバー − 
一般    8
シニア  62
シルバー − 
一般   359
シニア
シルバー − 
一般   155
シニア  40
シルバー − 
     795戸    75戸    70戸    359戸    195戸


検討結果における店舗供給面積の妥当性

事業対象
   地区
供給店舗
総面積(u)
供給店舗戸数従前店舗
面積(u)
従前店舗戸数  備    考  
1地区 13,900.0     備考参照     従前専用 16,000.0
従前併用 0,6000.0
1地区定借 13,900.0     備考参照        同  上   
2地区 02,440.0     備考参照     従前専用 04,300.0
従前併用 01,000.0
2地区定借 02,440.0     備考参照        同  上   
2−1地区定借 01,220.0     備考参照     従前専用 02,580.0
従前併用 00,600.0
2−2地区定借 01,220.0     備考参照     従前専用 01,720.0
従前併用 0,0400.0
3−A地区  −   −   −   −     − 
3−B地区 01,400.0  1601,068.0  16転出率0と設定
4−A地区 01,000.0  1001,700.0   5    − 
4−B地区 02,700.0  1601,800.0  11    − 
4−C地区 02,050.0  1202,000.0  13    − 
5−1A地区 00,460.0   600,600.0備考参照A+B+Cで 16 戸
5−1B地区  −  −00,730.0備考参照   同  上   
5−1C地区  −  −00,150.0備考参照   同  上   
5−2A地区 00,468.0   600,600.0備考参照   同  上   
5−2B地区  −  −00,730.0備考参照   同  上   
5−2C区  −  −00,150.0備考参照   同  上   
5−3A地区 00,549.0   800,600.0備考参照   同  上   
5−3B地区  −  −00,730.0備考参照   同  上   
5−3C区 00,216.0  −00,150.0備考参照   同  上   
6−1B地区  −  −  −  −    −     
6−2B地区 01,940.0  1001,500.0備考参照 B+Cで 30 戸
6−2C地区 00,910.0   401,500.0備考参照   同  上   
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福島市中心商店街空洞化対策事業において検討された補助制度

 本調査報告書の事業化検討調査に当たっては、明確な都市骨格の形成と回遊性確保を前
提とした整備方針を示した上で、都心居住の成立を条件とした事業化手法として、再開発
をベースにさまざまな補助制度を複合的に活用することを提案している。しかし、補助制
度そのものの採択要件が情況によってまちまちで、実際の事業化収支の中で必ずしも全部
取り込まれている訳ではない。その総合対策の概要を一覧表に示すことは大変に有効なこ
とであるが、これはいま少し具体的条件が整った状態での検討が必要であるため一覧表と
はせず、各事業化検討資料の最後にできる限り付して置いたので参照されたい。
 いずれにしろ今回の調査結果で明確にされたことは、中心市街地(特に中心商店街)に
おける土地の高騰は民活だけで都心居住の促進や商店街活性化が可能な範囲を大幅に逸脱
しており、行政による土地購入などの基本的梃入れを事業化の核として、都市計画的配慮
の基に総合対策がなされるべきであるという点につきる。

中心商店街空洞化対策事業における総合対策

 今回は、福島市をケース・モデルとした中心商店街空洞化対策事業の可能性を検討して
きた訳であるが、現状では政府の施策が住宅政策や中心市街地活性化策が明確な基準を持
たない情況に加えて、資金の回転が望めないことから、民間活力だけでは中心市街地に新
たな息吹を吹き込むことは大変につらい情況にある。しかし、周辺の農山村地区と提携し
た有機農産物市場の開催とか、テーマ都市への変貌などが都市活性化に結びついている現
状を鑑みると、周辺町村との連携を生活スタイルの基本に据え、都市骨格を明確にしたマ
スタープランの設定が、本質的意味での都市の活性化を導くものと考えられる。そうした
意味では、積極的補助政策の展開もさることながら、有用な補助政策の連携をいかに構築
していくかが重要な鍵になる。単発的補助では規模的にも限界があるが、複合的補助は規
模の拡大をも可能にし、大きな無駄を省くことにもなる。そうした意味で、今回の補助の
組み合わせを一つのきっかけにできたら幸いである。
 また、各省庁連絡会議などで提案されている「中心市街地再活性化のための総合対策」
で示された事業名や事業目的、事業内容、補助概要、事業主体といった項目と現場におけ
る活性化策との連携マトリックスを完成させることが今後の対策を検討する上で重要な作
業となろう。
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中心商店街空洞化対策への提言

 高齢化社会対応の歩行を前提とした小さなコミュニティーの確立と、それぞれのコミュ
ニティーを有機的に結合する都市の回遊軸を形成することによって定常的購買力を確保す
ることが、中心市街地の空洞化対策には重要なファクターとなる。この定常的購買力を背
景にした都市骨格の提示が、その都市の今後のライフスタイルおよび近未来のライフステ
ージを明確にすることになる。こうした都市構造の根本的な部分への施策の提示が都心居
住への道を開き、住民の活力を引き出す基となる。
 しかし、今回の空洞化対策事業の検討結果は、もしこのような条件が整ったとしても、
極限にまで達した感のある土地価格の高騰はあらゆる活力を削ぎ落してしまうであろうこ
とを示している。いうなら、適正規模を目指した開発では床価格の上昇を招き、床価格を
適性値に設定すれば適性規模をはるかに超えたボリュームにならざるを得ない。また、中
途半端な大規模交流施設は、施設単体では、都市の好ましい姿を破壊するか新たな人的流
れを引き起こすには力不足かのいずれかの結果しか予測し得ない。
 すなわち、中心市街地の空洞化対策には、適正規模のコミュニティーに取り囲まれた中
心都市軸の設定と提供床価格の設定如何ということになろう。そこで総合対策は次のよう
なことを骨子として検討されたい。

【都市の特性の把握】
0.山あいの落ち着いた文化・行政中心地。単なる経済効率や便利さに跪くことのない、
 心の通ったコミュニティーの創出。歩くことを楽しめるまち。

【都市骨格の設定】
1.駅前広場−他世代交流大規模施設−サブターミナルを連結した中心都市軸の設定。
2.中心市街地の範囲とサブ核の設定。
3.中心都市軸を後背部で支えるコミュニティーのサブ核同志を連結する回遊軸の設定。
  地区ごとに補完的性格をもつ支援施設の検討。

【都心居住の促進】
4.高齢化社会対応の自立したコミュニティー空間の想定。
5.自立したコミュニティー確立のための支援施設の想定。
6.適正床価格の想定。

【適正床価格の提供】
7.都心居住促進のための郊外と同程度の低価格保留床の提供。
8.低価格保留床提供に必要な公的資金の投入。
9.公的資金投入の切っ掛けとしての公共施設の検討。
10.公共施設を含めた融合体としての建設プログラムの設定。地権者については、土地付
 きの縦割り区分所有も可能。

【商店街活性化のための具体的手法】
12.低層開発による床価格の高騰分を、土地買い上げなどの公的資金の投入によって、郊
 外の床価格と同程度まで下げる。
13.交差点を取り巻く四つの敷地を公営施設の地下駐車場で連結したスーパーブロックと
 して取り扱い、区分地上権を取得。交差点を囲む小さなパティオ的再開発。
14.路線商店街への車の進入は主として直交するラダー状の道路から店先まで。単純な通
 過交通は禁止した交通システムの設定。
15.各商店前面をウオークスルー空間として開放。ワゴンによる露天商的展開。
16.他世代交流施設とサブ核を連携した目的別定期市場の開催。
17.回遊軸を形成する核として四年制大学、女子大学、社会人大学や社会人大学院のサテ
 ライトを誘致。都市の中心軸としてはコリドーに囲まれた自由広場の設置。
18.定期借地権の設定による底地価格の逓減。ただし、各種権利の周期の一致を考慮した
 特約付とすることが必要。底地は公共の所有であることが最も有利。
20.その他。


 以上の検討を踏まえて、改めて図−9のような都市骨格の形成を提案するものである。



1.民活・行政施設の複合化による中心商店街の大規模交流施設
    定期市開催などコリドーに囲まれたふれあい交流イベント広場
    屋外ふれあいステージ
    市民生活情報サービスセンター   200 u
    保育所などのダブルインカム施設併設飲食店街
    立体駐車場   150 台

2.中心商店街周辺の大規模駐車施設
    商店街経営の大規模駐車施設  200〜300 台

3.大規模な行政施設を中心とした介護・学習・住宅複合施設
    デイサービス施設   700 u
    在宅介護支援センター   85 u
    ヘルパーステーション 50 u
    公営住宅 30 世帯  2,400 u 
       (デイサービス他公営住宅まで合築を考慮)
    地区4民間医療施設
       ならびに新規最寄商店4〜5店舗集中化 450 u
    約 20,000 u の2〜3棟の分散型公営施設

4.回遊性確保のための巡回デイサービスを含む拠点施設
    デイサービス施設   700 u
    シルバーハウジング  20 戸 
    特公賃3LDK     10 戸
    コミュニティーセンター・店舗・駐車場

5.民間資金主体の住居を見据えたパティオ型事業
    5〜6階建の店舗併用住宅
      (地権者・自治体借り上げ・賃貸住宅)
  ワンストップ行政サービス(ふれあい郵便局など)
    と融合した自治体建設高齢者向け店舗併用モデル住宅

6.民間独自資金による人工地盤・半地下型店舗併用住宅
    人工地盤による駐車場の屋上は庭園とする

7.四年制大学、女子大学、社会人大学や社会人大学院のサテライト

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